真っ暗にした展示室の中央に水槽……いや水槽式のタッチパネルなのかな? 水の下にモニターがあって、水面を触れると反応する。聖書の天地創造の章の英文データに、水面を誰かが触れるたびに新たなノイズをいれてゆく。蓄積されたデータを定期的に出力して、周囲の壁にぐるりと設置されたライトボックスに張り、一巡すると次々と過去のデータははずされ、新たなデータを張ってゆく。「水」がすべてを創造したという言葉と重ね、変化を遂げてゆくプロセスを見せてゆく。未だ学生という2人のユニットは、次は何を見せてくれるのか期待したい。 [8月10日(土) 原久子]
「カフェ・イン・水戸」の「カフェ」とは「Communicable Action For Everybody」の略称で、水戸芸術館がアートを介してコミュニケーションを広げるため、館外にも展示したもの。館外の作品は、水戸駅から国道50号沿い約1.5キロの商店街に集中しているが、どれも小粒で目立たない。そのなかでイチハラヒロコは、駅ビルやデパートなど数カ所に垂幕の作品を掲げているほか、商店の買物袋や銀行の現金封筒にも言葉の作品を刷っていて、野外展示のミセスクイーンだ。ミスクイーン(たぶんミスだと思うが、違ったらミスってことで)は、廃屋となったデパートに巨大なバルーン人形を横たえたさとうりさ。どちらも名前を仮名に変換しているところに目立ちたがりの性格が表われている。これら野外作品を見たあとで芸術館に入ると、館内の作品がよりよく見えるという仕掛けだ。お習字教室の徐冰、変な足跡がついてくるminim++、金属板で遊べる金沢健一、真っ暗な部屋をブラックライト片手に探検するデジタルPBXなど、完成度の高いインタラクティヴな作品が多い。展覧会の趣旨からしてインタラクティヴな作品ほど館外に出すべきはずだが、それが逆転せざるをえないところに、美術館が主催する野外展のジレンマがあるように思えた。 [8月10日(土) 村田真]
日韓共催ワールド杯がらみでの日韓展のひとつ。双方の国から6作家ずつが出品したこの展覧会は出品者全員が女性。キュレーターも双方の国からひとりずつ出ているがこちらも女性。企画の内容は、芸術交流のまず初めの一歩だから、双方から質の高い、また現代を象徴するようなアーティストの作品を紹介し合いましょう、といった優等生的な雰囲気が感じられた。お互いに情報がまだ十分でないわけだから、こうした企画は入門編としては大事だろう。こんな作品を作っている人がいるのだということで、互いがその仕事に興味をもって、今後の行き来が盛んになってゆけばこのうえない。 [8月11日(日) 原久子]
千葉県のほぼ中央部にある4つのニュータウンで行なわれているアートプロジェクトを見学。コミュニティがあるようでないようなニュータウンのコミュニティデザインを、23大学の美術・建築系39ゼミにゆだねるという無謀な企画だ。今回見たのはその3分の1程度だが、おもしろいのは建築系と美術系の対比。建築系は総じてリサーチに力を入れ、こうだからこうしなければと演繹的に解を求めていく。たとえば、コンビニから出るペットボトルで風車をつくったり照明器具に再利用したり、ペットを飼う住人が多いことからユニークな犬小屋を設計したりと。かしこいけど、せこいともいえる。それに対して美術系は、直感的にとんでもない解を見出してしまう傾向がある。その典型が、武蔵野美大の伊藤誠ゼミによる「凹心凸心」だ。ニュータウンの更地に直径60メートル、深さ5メートルの巨大なクレーター状の穴を掘ったのだ。穴のなかに入ると空以外はなにも見えない。ただそれだけ。なんの役にも立たない。だけどすごいインパクト。東京芸大の佐藤時啓ゼミも暑さのせいか、キてる。わざわざ高台の上に櫓を組んで、昔ながらの上総掘りで延々と井戸を掘っているのだ。別に水が出たところで飲料水に使うわけでもない。やっぱりバカだ、美術は。 [8月11日(日) 村田真]