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アクースマティック 

Acousmatique
更新日
2024年03月11日

ミュージック・コンクレートの創始者、P・シェフェールらが考案した、音がいかなる参照事項(例えば音源や意味)にも結びつかないこと意味する形容詞。例えば「アクースマティックな状況」、「アクースマティックな経験」のように使われる。この用語は時間とともに意味を拡大していった。そもそも「アクースマティック」という言葉は、ピタゴラスが弟子に講義するときに幕を張って身を隠し、声だけに集中させたという故事に由来する(幕の外にいる弟子が「アクースマティコイ」と呼ばれた)。この語を1950年代にミュージック・コンクレートを論じるために使用したのが、小説家で詩人のJ・ペニョとシェフェールだった。シェフェールは『音楽オブジェ概論』(1966)のなかで、フッサール現象学における現象学的還元の理論を参照しながら、この用語と、参照事項をもたない音=「オブジェ・ソノール」、音を参照事項と結びつけない聴き方=「還元的聴取」という3つの概念を論じている。彼の理論は言うまでもなく、音を音源からはっきり分離できる録音技術、スピーカーを用いた楽曲制作から想を得たものである。70年代に至ると、F・ベイルらがスタジオで制作されてホールで上演される音楽を「エレクトロ−アクースティック音楽」に代えて「アクースマティック音楽」と呼ぶようになった。またこうした音楽を上演する、特にマルチチャンネルのサウンド・システムを使用するコンサートも「アクースマティック・コンサート」と呼ばれるようになる。80年代以降、M・シオンはシェフェールの理論を映画音楽に適用した。最初は音源が見えているが後に「アクースマティック化」する状況など、映像と音の関係をこの概念によって考察している。

補足情報

参考文献

Traité des objets musicaux,Pierre Schaeffer,Seuil,2002
『映画にとって音とはなにか』,ミシェル・シオン(川竹英克ほか訳),勁草書房,1993
『現代音楽を読み解く88のキーワード 12音技法からミクスト作品まで』,ジャン=イヴ・ボスール(栗原詩子訳),音楽之友社,2008
Audio Culture: Readings in Modern Music,Christoph Cox,Daniel Warner eds.,Continuum,2004