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熱い抽象/冷たい抽象

Abstraction Chaud/Abstraction Froid(仏), Hot Abstraction/Cool Abstraction(英)
更新日
2024年03月11日

抽象絵画の傾向を幾何学的抽象と表現的抽象とにわけ、前者を「冷たい」、後者を「熱い」と対照的に特徴づける美術史・批評上の表現。この語は第二次世界大戦後のヨーロッパ、とりわけフランスで1950年代前半に多く用いられた。戦後、米国を巻き込んで国際的に広まった抽象絵画運動に際し、フランスで純粋抽象の伝統と、新しく現われた表現的な抽象を整理する必要があった。そこで、モンドリアンに代表される幾何学的な形態と限定的な色彩で構成される純粋抽象を「冷たい(cool/froid)抽象」と呼び、デュビュッフェやヴォルスらのアンフォルメル絵画やポロックやデ・クーニングらの動的な構図、自由な色彩、身振りの激しい描き方などを伴った抽象絵画の傾向を、「熱い(hot/chaude)抽象」と呼んで区別した。また、この二分法によって抽象芸術を種別する枠組みも一般化した。すなわち、工業化や色彩・光学の発展を背景に現われたデ・ステイル、バウハウスやロシア構成主義の抽象の系譜と、感情や人間の内面性の問題を扱い、有機的な表現や色彩の効果も取り入れてきたカンディンスキーやドイツ表現主義の系譜である。しかしこの分類に当てはまらない、あるいは両方に当てはまる抽象的表現があることは言うまでもなく、この語は傾向を示すための便宜的な分類法でしかない。戦後の日本では、戦争で中断された幾何学的抽象やシュルレアリスムと、戦後のエコール・ド・パリの動向やアンフォルメルがほぼ同時に展開したため、「熱い・冷たい」の区別は批評家が傾向を分析するのにしばしば便利に使われた。

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参考文献

Qu’est-ce que l’art abstrait?: Une histoire de l’abstraction en peinture,1860-1960,Georges Roque,Gallimard,2003
L’art abstrait,Laure-Caroline Semmer,Larousse,2010
『美術手帖』増刊号,現代美術の冒険,美術出版社,1960年4月