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趣味

Taste
更新日
2024年03月11日

物事の味わいや情趣を感じ取る能力。そこから転じて、芸術作品の嗜好、美意識、審美眼なども意味する。より哲学的な文脈では、論理的判断とも実践的判断とも異なる判断(=趣味判断)を下す際に働く能力のこと。なお、日本語の「趣味」は英語のhobbyの訳語としても用いられるが、それについてはここでは扱わない。
「趣味」という概念を哲学的にはじめて明確に位置づけたのは、ドイツの哲学者カント(1724-1804)である。美学史上最大の古典のひとつであるカントの『判断力批判』(1790)の前半部「美的判断力の批判」は、趣味判断の分析を中心に構成されている。カントによれば、趣味判断は認識判断とは異なり、対象の性質に左右されることがない。「このバラは美しい」という判断は対象の存在に関わるものではなく、それを判断するこの「私」にとっての表象からもたらされる。このことから、趣味判断によって判定される美はカントによって「関心なき快」とも呼ばれる。
上記のような仕方で「趣味」を哲学的な議論の俎上に載せたカントの重要性は否定すべくもないが、カントの議論は今日的な観点からすればおよそ容認できない面を数多く含んでいる。ここでは2点だけ指摘しておきたい。(1)カントは、元来「趣味」と同義である「味覚」は厳密な意味での趣味(「反省趣味」)ではなく、たんなる「感官趣味」でしかないとする。しかし、高級感覚と低級感覚という区別を前提とするこうした二分法には批判の余地がある。(2)カントによれば、趣味判断は個人的な判断であるにもかかわらず、同時に普遍妥当性を要求しうるものであるという。これは、すべての人間には共通感覚(sensus communis)が備わっているという前提に基づくものだが、これもやはり今日からすれば大いに再考すべき必要がある議論である。

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