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ボミング

Bombing
更新日
2024年03月11日

グラフィティをストリートにかくこと。文字通り「爆撃する」という攻撃的なニュアンスが強く、違法行為によって法律や国家、資本主義経済などの社会システムに対して異議申し立てをするというグラフィティのゲリラ的な反骨精神が表現された言葉。そのため、人目につきやすい繁華街や交通量の多い大通り、侵入の難しい建物の高層階(ルーフトップ:rooftop)、電車や鉄道の車庫など、警察に拘束されるリスクの高い場所でタギングやスローアップを素早くかく場合を主に指し、合法的にかかれるリーガル・ウォールや人に見られる可能性の低い場所で時間をかけてマスターピースをかく場合には用いられない。そのような反社会的な性質を濃厚にはらみつつも、ボミングは同時に、違法行為を行なうことそれ自体に伴う侵犯の快楽として享受されるという側面と、それに起因する中毒性をもつ。そのような中毒性が激化すると、鋭利なもので窓ガラスを削る、消火器などの特殊な道具で大きく派手にかくといった、物理的・視覚的な暴力性が際立つ手法に発展する。より強い刺激を求めて破壊衝動を露骨に示すそのようなタイプのボミングを特に「ヴァンダリズム(vandalism)」と呼ぶ。他方、グラフィティ・ライター同士のバトルにおいて、そのような攻撃性は当事者間にも生起する。自分のタギングの上に他のタギングがかかれているのを発見した場合、さらに自分のタギングを上書きしてやり返し、他の場所にある相手のタギングも同じように上書きしていく応酬戦というかたちでバトルは展開していく。「ゴーイング・オーバー(going over)」と呼ばれるこれらの現象は、コミュニティ内での有名性やステータス、スタイルの競い合いと密接に結びついている。そのため、コミュニティ外部の社会に向けた純粋な攻撃性やそれに並行する自己完結的な快楽といった通常のボミングの原理とは別の水準で駆動しており、そこでは、グラフィティの攻撃的性格とスタイルの追求という創造性が重なりあっている。

補足情報

参考文献

『現代思想』2002年5月号,「タギングの奇蹟 アーレント・イン・アンダーグラウンド」,酒井隆史,青土社
『10+1』No.40,「動物化するグラフィティ/タトゥー──都市/身体の表面への偏執」,南後由和,INAX出版,2005
アゲインスト・リテラシー──グラフィティ文化論,大山エンリコイサム,LIXIL出版,2015