バックナンバー
2015年10月15日号のバックナンバー
フォーカス
第14回イスタンブール・ビエンナーレ
[2015年10月15日号(梁瀬薫)]
世界で唯一アジアとヨーロッパにまたがり、栄光と負の歴史が残存する信仰に満ちた多彩な近代都市イスタンブール。世界中の観光客をも魅了してやまない反面、近年の治安の悪化に目を伏せずにもいかない。今年に入ってから米国領事館への銃撃事件や警察本部への襲撃事件、観光名所ドルマバフツェ宮殿での襲撃など、生活を脅かす事件が相次いでいる。さらに10月10日首都アンカラでの平和集会でのテロ事件は99人(10月15日現在)の死者を出す最悪の悲劇となった。第14回目を迎えるビエンナーレは、この地域性を踏まえ、アーティストだけでなく、有識者や科学者、哲学者など幅広い視点から、現代社会が抱える問題、環境、過去そして未来に向けてアートとライフ(人類が生き続けること)の根本に問いかけた。
キュレーターズノート
「THE BOX OF MEMORY: Yukio Fujimoto」、寺田真由美「視る眼差し×看る眼差し」「他人の時間:TIME OF OTHERS」
[2015年10月15日号(中井康之)]
美術館に勤めているとはいえ常に美術作品と接しているというわけではない。あらためてこのようなことを述べるのは、先日、多摩美術大学の広報誌から取材を受けた際に、学芸員というのは収蔵庫に暮らすかのような日々を過ごして美術作品と常に対峙しているというイメージを抱いていた、といった意味の応答を受けたからである。もちろん、そのような場所での作業も業務のひとつとしてはある。しかしながら、学芸員の職務の中心をなすものとは、美術作品が社会的どのように機能していくのかということを総合的に判断してその役割を与えていくような内容ではないかと考えている。であるがゆえに、働いている場所というのが自ら務める美術館の収蔵庫である必要は当然なく、さらには美術館のオフィスである必要もないだろう。もちろん、そのような主旨で思考を重ねる場所として美術館のオフィスは準備され、それを実現する場所として美術館の展示空間は用意されているわけではあるのだが……。
「嘉麻市レジデンシー・ビエンナーレ」「STANCE or DISTANCE?──わたしと世界をつなぐ‘距離’」
[2015年10月15日号(坂本顕子)]
福岡県筑豊地方に、嘉麻市立織田廣喜美術館という小さな美術館がある。同地出身で、二科展で長く活躍した織田を記念・顕彰する美術館で、筆者も2003年に開催した「九州力──世界美術としての九州」の作品借用以来、約10年ぶりに訪問した。
トピックス
「20世紀琳派 田中一光」展講演リポート
[2015年10月15日号(小吹隆文)]
美術史家で明治学院大学教授の山下裕二が、9月19日に京都国立近代美術館で講演を行なった。その内容は、京都dddギャラリーで10月29日まで開催されている展覧会「20世紀琳派 田中一光」に沿ったものだ。同展では、グラフィックデザインの巨匠・田中一光(1930~2002)の作品123点を「山」「動物」「波」など13種類の要素に分類し、田中がいかに琳派から影響を受け、そのエッセンスを自己のものにしたかをたどっている。山下は永井一正、木田安彦と共に同展の監修を務めており、展覧会図録にも文章と作品解説を寄稿した。イベント当日は、田中の作品と彼が引用した琳派の作品を映像で見比べながら、田中と琳派の関係を明快に解説。同時に、田中以外の現代の美術家と琳派の関係にも言及した。
デジタルアーカイブスタディ
(独)国立美術館理事長 馬渕明子氏に聞く:
「法人・国立美術館の野望」──全国の美術館をリードする
[2015年10月15日号(影山幸一)]
日本国内にある5つの国立美術館★1の運営・管理を効果的、効率的に行なうために設立された美術振興の中心的拠点組織をご存知だろうか。2001年に発足した独立行政法人国立美術館★2である。その国立5館をまとめる理事長として2013年8月に就任した馬渕明子氏は、2015年6月6日、国立西洋美術館で開催されたアート・ドキュメンテーション学会で「法人・国立美術館の野望」と題した基調講演を行なった。国立美術館の運営管理と情報化の指針を示す内容であり、全国の美術館にも関連する「日本国内美術品デジタルアーカイブ」などに言及するなど、「デジタルアーカイブ」の具体的なビジョンを語った初めての出来事であった。美術情報の記録管理に対する基準を示し、全国の美術館を牽引していこうとするトップの決心と言えるだろう。この講演に至る背景と今後の展望について、国立西洋美術館の館長も兼任されている馬渕氏に、国立西洋美術館の館長室で話を伺った。