バックナンバー
2021年01月15日号のバックナンバー
フォーカス
石岡瑛子は何者であったのか──
表現を磨くこと、自由と自立を獲得することの先に
[2021年01月15日号(鈴木萌夏)]
東京都現代美術館で「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」が現在開催中だ(2月14日まで)。アートディレクター/デザイナーとしての石岡瑛子の1970年代から2000年代までの膨大な仕事のみならず、それらの土台となったラフスケッチや色校正紙といった石岡の熱量が肌で感じられる資料群も印象的な本展。大学院修士課程で日本の90年代の美術のもつバックグラウンドについて調査・研究をし、ZINE『レントゲン藝術研究所の研究』の発行などを通してこの国の近過去-現在の接続関係を紐解く鈴木萌夏氏に、この展覧会についてご寄稿いただいた。(artscape編集部)
キュレーターズノート
「菜香亭」で交わる二つの時間──山口現代芸術研究所(YICA)と西田幾多郎
[2021年01月15日号(吉﨑和彦)]
昨年12月、山口現代芸術研究所(YICA、通称イッカ。以下「YICA」)が企画したグループ展「遍在するビューポイント 2」展が山口市菜香亭で開催された。会場となった菜香亭は、1877年から1996年まで料亭「祇園菜香亭」として営業し、山口出身の井上馨や佐藤栄作など多くの政治家たちに利用されていたが、現在は、市の観光施設として活用されている 。伊藤博文をはじめとしてこれまで9人の総理大臣経験者を輩出してきた山口 。山口出身の政治家たちとも関係が深く、彼らの自筆の書が近代和風建築の室内に飾られ、「明治維新」以降の山口の近代史を物語るこの場所で、山口の現代美術にまつわる歴史に思いを巡らせた。
未知の出来事について耳を傾ける時間──「聴く─共鳴する世界」展
[2021年01月15日号(住友文彦)]
聴くというテーマで展覧会を企画する発想は、サウンドアートを対象にすることから始まったものではなかった。もちろん、何をどのように聴くのか、について私が考え始めるきっかけとして、ノイズやデジタル音楽があったのは間違いないし、特にフィールドレコーディングのワークショップ経験から得るものは少なくなかった。ジョン・ケージやフルクサスの作品を振り返って確認する作業も行なったし、3年前にクリスチャン・マークレーとロンドンのスタジオでこのテーマについて話したことから得たものも大きい。しかし、実際に構想を練る段階になって、もっと重視したのは自分が知らない出来事について耳を傾ける経験であり、それはサウンドだけでなく言葉や声も対象に含むものである。聴くことを通して未知の出来事や存在と向き合うこと、つまり不確実性が芸術の創造とどう関係しているのか、考えてみたいというのが主な動機だったと思う。私自身が「よそ者」として異文化体験を繰り返してきたことや、学生時代に「美術史」という歴史学の手法で美術と向き合うときにおぼえた違和感、20代でバブル経済の崩壊や震災を経験したこと、あるいはジャン=リュック・ナンシーが心臓移植体験をもとにアイデンティティや共同体について書いた『侵入者』(以文社、2000)、地域の福祉や教育と関わる団体と協働するアートプロジェクトで繰り返してきた対話など、こうしたさまざまなことが下敷きとなり、聴くことをめぐって考えてきたことが構想を形づくっている。