バックナンバー
2021年06月01日号のバックナンバー
フォーカス
ロックダウン明けのパリ、ルーヴル美術館より
[2021年06月01日号(栗栖智美)]
L'art est une évasion de la réalité.
「芸術は現実からの逃避である」とはアンリ・マチスの言葉であるが、この1年、フランスは、いや世界は、未曾有のCOVID-19というウイルスに対して現実逃避をする場所さえも奪われてきた。
現実逃避。それは人によっては旅行であり、レストランでの食事であり、美術鑑賞である。忙しい日々をふっと忘れさせてくれるものがあるからこそ、毎日頑張れるのだ。
このウイルスによる長い「戦争」(マクロン仏大統領は演説で何度も「戦争」という言葉を使った)はまだ終わっていないものの、5月下旬時点で人口の38%へのワクチン接種を完了させたフランスは、「終戦」が近いことを感じ取っている 。
現在、「終戦」への道のりは段階的、計画的に行なわれており、5月19日には美術館・映画館など文化施設の待望のオープンとなった。今回は、フランスにおけるCOVID-19との戦いの経緯と、美術館オープンの模様をお伝えしようと思う。
キュレーターズノート
「Swing! Swing!! 大島よしふみ彫刻展」──50年の軌跡をたどる
[2021年06月01日号(橘美貴)]
この春、彫刻家・大島よしふみの個展「Swing! Swing!! 大島よしふみ彫刻展」が高松市塩江美術館で開催された。
大島は1954年香川県生まれの彫刻家で、県内では駅前などに彼の彫刻作品が設置され、日常風景の一部になっているところもある。また、瀬戸内国際芸術祭には2010年の初回から継続的に関わっているため、「瀬戸芸」「男木島」「オンバ」というイメージをもつ人も多いだろう。しかし、大島の作品は、石と金属を併用した初期作品、2000年以降の「動く彫刻シリーズ」、2010年代の男木島での活動、今回コロナ禍で新しく制作した「揺れる作品シリーズ」と、多彩な展開を見せている。
本稿では、塩江美術館での個展とともに大島のこれまでの活動を振り返る。
護るべきもの、手段としての秩序──「野口哲哉展─THIS IS NOT A SAMURAI」、「ホー・ツーニェン ヴォイス・オブ・ヴォイド─虚無の声」
[2021年06月01日号(会田大也)]
山口市内で見ることができる2つの展覧会についてのレポートをお送りする。「野口哲哉展—THIS IS NOT A SAMURAI」(山口県立美術館)と、「ホー・ツーニェン ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」(山口情報芸術センター[YCAM])についてである。異なる2つの展覧会を往来しながら考えるうちに、日本が置かれている現在の状況を背景に見えてくることがあると感じた。
トピックス
3Dデジタル技術がひらく、ニューノーマルの文化体験
[2021年06月01日号(小林桂子)]
DNP五反田ビル1F(東京都品川区)で「BnF × DNP ミュージアムラボ 第2回展『これからの文化体験』」が開催されている(一般向けの公開は6月5日~7月11日を予定。予約制)。
タイトルに「第2回展」とあるように、この展示はフランス国立図書館(BnF)と大日本印刷株式会社(DNP)が協働し、BnFが所有する作品をデジタル化し、そのデータを活用した鑑賞システムを開発するシリーズとなっている。2016年に開催された第1回展では、BnFの地球儀・天球儀のデジタル化と体感型鑑賞システムを制作・展示している 。
[PR]サントリー美術館に聞く! 学芸員インタビュー「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」
[2021年06月01日号(内田洸/内田伸一)]
ミネアポリス美術館(通称Mia)は、1883年に25人の市民が地域の暮らしに芸術を取り入れようと設立したミネアポリス美術協会を前身とする。同協会による美術展の企画開催、公立図書館内の常設展示室開設などを経て、1915年に最初の美術館建築が開館。以来、世界各地の多様な美術品を収集・公開している。日本との縁では1974年の丹下健三による増築も目を引くが、やはり特筆すべきは9500点近くにのぼる日本美術コレクションだろう。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展は、近年も成長を続けるこのコレクションから、水墨画、狩野派、やまと絵、琳派、浮世絵、文人画(南画)、さらに特定の画派に収まらない伊藤若冲らの奇才や、幕末〜明治に生きた河鍋暁斎らの画業まで幅広い名品を精選。日本絵画の粋が多数「里帰り」する大規模展だ。国内4館巡回の皮切りとなるのは、東京のサントリー美術館。開館60周年を迎える同館の基本理念「生活の中の美」は、前述のミネアポリス美術協会が目指した「暮らしに芸術を」とも響き合う。そこでサントリー美術館の内田洸学芸員に、展覧会の見どころを伺った。