バックナンバー
2022年03月01日号のバックナンバー
フォーカス
【ベルリン】分断の社会に投じるrefusal(拒否)というアイデア──transmediale 2021–22: for refusal
[2022年03月01日号(日比野紗希)]
アート・デジタルカルチャーのフェスティバルtransmedialeのハイライトが2022年1月26日から2月18日にわたってベルリンで開催された。
新アーティスティックディレクター、ノラ・オ・ムキュ(Nora O Murchú)のもと、例年とは異なり、2021年から2022年の通年で行なわれた第35回フェスティバル。「for refusal」というテーマを掲げ、さまざまな社会課題に対する社会的および政治的な代替システムの構造の想像と議論の場として、オンラインやオフラインでの展覧会やレクチャー、ワークショップを展開した。1年間にわたって行なわれたフェスティバルの集大成として開催されたシンポジウム「This is Not Anarchy, This is Chaos(これは無秩序ではない。混沌である)」と展覧会「abandon all hope ye who enter here(この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ)」を紹介したい。
キュレーターズノート
家族と芸術、社会の「合流点」──佐々木健「合流点」
[2022年03月01日号(能勢陽子)]
家は、よほど近しい間柄でない限り、家族以外の者には閉ざされた空間である。しかし、佐々木健が祖母の家で自閉症の兄を主題に開催した「合流点」では、門扉を開けて玄関を上がると、家族のなか、そして芸術のなかに封じ込められていたはずの「閉ざされ」が、豊かな「開かれ」に反転していく。私的な場だからこそ生じる親密さが、公共や芸術に対する切実な問いにつながっていく。
田部光子をひとりの美術家として語り直すために──田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」
[2022年03月01日号(正路佐知子)]
福岡市美術館では現在、福岡拠点の美術家・田部光子(1933年生まれ)の初期から現在までの作品と活動を紹介する展覧会、田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」を開催している(2022年3月21日まで)。
開幕以降、さまざまな反応・反響があり、担当した筆者も、田部光子の作品と活動に新たな光が当たり始めていることを実感している。と同時に、なぜ田部光子の個展を開催するのか──田部が〈九州派〉の主要メンバーだからか、それとも女性美術家の再評価の動きに合わせたのか、という問いを複数回受け、戸惑ったこともあった。そもそも福岡市美術館は田部光子を、九州を拠点に活動する美術家のなかでも個展を開催すべきひとりとして認識してきた。田部は福岡や九州という地方美術史にとって重要なだけでなく、その作品と活動、そしてそれらを貫く問題意識は戦後から現在までの美術史上においても際立つものであること、美術という領域に収まらないスケールを持っていることは、本展覧会を見ていただければわかると思う。
10年目を終える今、災害伝承展示のあり方を考える
[2022年03月01日号(山内宏泰)]
東日本大震災発生10年、そして11年目を迎えようとする被災地、宮城県気仙沼市。2013年4月に公開が開始されたリアス・アーク美術館常設展示『東日本大震災の記録と津波の災害史』の続編ともいえる特別展「東日本大震災発生10年特別企画『あの時、現在 そしてこれから』展」が、現在開催されている。東北の被災地に乱立する震災津波伝承施設へのアンチテーゼを提示する同企画展を一例として、災害伝承展示のあり方を述べる。