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MORI channel|水戸芸術館現代美術センター学芸員・森司によるブログ。学芸員の日常や最新のアートニュースを伝えます。
2005.12.10

走る

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牛久の大仏様の後ろ姿を拝む(かな)。

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突然目覚めたように強烈な光を放つ朝日の力強さに惹かれる。


クルマで移動する。
朝一番で市内での用を済ませ、高速に乗り千葉・佐倉の川村記念美術館に向かい、都内にもどって清澄に移転した小山登美夫ギャラリーを訪ね、そこから横浜のBankART1929を最終ゴールとするドライブに出た。幸いにして文句なしのドライブ日より。今日の行き先は、移動にクルマを使わないとちょっと不便する。ドライブ日和といったファンは理由だけではなく、至便性の理由からだ。単に川村記念美術館を訪ねるだけの時でもクルマを出すことが多い。しかし、今日は横浜まで行くロングドライブの1日。


川村記念美術館開館15周年記念特別展「ゲルハルト・リヒター—絵画の彼方へ」展。「フォト・ペインティング」「カラー・チャート」「グレイ・ペインティング」「アブストラクト・ペインティング」とリヒターの代表的スタイルの大作が呼応するように並ぶ。
1982年の《2本の蝋燭》が蝋燭の実寸からすればかなり画面の大きな作品であったこともオリジナルの直接的視覚体験として、いささかの驚きもあったが、僕が一番気に入り、衝撃を受けたのはガラスの作品。なかでも《11枚のガラス板》と題された大きなガラス板11枚を同じ位置に上下の隙間を少し幅を変えて重ね、立てかけただけの作品。そんな単純な仕草が無限の表情を帯びる絵画作品へとガラスを変容させる。仕掛けは明快な作品ながら奥は深い。僕の黒いハーフコートの裾が波紋状に映る。ちょっと幻惑的な画像だ。
3日前(8日)の朝日新聞に写真家、鈴木理策氏が寄せた同展覧会評の記事の挿図としても使われていたけど、《11枚のガラス板》に《雲》(1978)とそれを見る来館者が映り込んでいる様も良いし、正面に立つ自分の姿の映り込みを見るのも楽しい。
どう楽しい楽しいかは、作品の前に立てば分かる。まさに、その場でその作品を実際に「見る」ことを要求するこの作品は、リヒターが意図するように、振る舞うしかない。画集では、作品の存在を確認することができても、作品を見ることはできないのだ。

映り込むと言えば、200×180cmの銀メッキ鏡に枠を施した1986年の作品《鏡》があるが、鏡面を覗く自身や周りの風景が映るのは自明のこと。その点から言っても、さらに他のガラスの作品と比べても、僕は《11枚のガラス板》を堪能した。


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《11枚のガラス板》を十分堪能した後で、敷地内のカフェでコーヒーを一杯飲み一息入れる。斜光の生み出すカップの影が美しく思えて、携帯のカメラで記録にとどめる。


バス停手前で農家直売店から落花生(千葉と言えば落花生でしょう)を廣瀬智央さんへのおみやげに一袋買い、小山登美夫ギャラリーに向かう。渋滞に遭うことなく、少し道に迷いはしたが、心づもりした時間には到着。
今日から初日を迎える、廣瀬さんには、パラディオ展開催の構想があった際のヴェネト州の現地調査で大変お世話になった。坂井淑恵さんは僕がかつてクリテリオムで紹介した京都在住のペインターさんだ。縁ある二人の展覧会が同時開催となれば、訪ねないわけにはいかない。会場に居た廣瀬さんに新作「BLUE BOX」の説明を受ける。


横浜着の遅刻を許されない僕は、長居が出来ず、今回は坂井さんには会うことができなかった。横浜までの所要時間が分からず、安全を取って移動すると、あっと言う間に到着してしまった。19時過ぎの間際の入りと伝えてあったのだがかなりの余裕。自転車を借り、中華街に向かい、アツアツの肉まんを食べる程の余裕ぶり。


会場となるBankART1929は、アートブックの流通をメインテーマにした2日限りの[art×book fair]の初日。当然、会場には流通に乗りにくい希少本の山。買いそびれていた「百年の愚行」オリジナル復刻版と絶版になっていた「軍艦島」の復刻本をまずはゲット。
さらに200円でクジを引き、出た年号の本の山から本を選ぶ売り方にそそられて3冊購入。何を手にしたのかは、紙袋から出すまでは分からない。福袋的楽しみもある。僕は次の3冊を600円で買ったことになった。1992年の「マドンナの真実」(どうでも良いことだけど、ラジオで今日か昨日か、日本からロンドンにマドンナが戻ったニュースを聞いたばかり)、1995年は西垣通、戸田ツトム監修の「メディアの現在」(うひょひょひょ、図版の製品(デザイン)がなんとも古ぼけて見える。10年で製品は進化しているのだ。)そして1967年は川端康成の「眠れる美女」。このユニークな販売コーナーを主宰しているのがbook pick orchestra。
book pick orchestraは、『本のある生活をより身近にしていくために、そして人と本とが出会う素敵な偶然を生み出すために、実験を続けるユニット。北仲WHITEにてbookroom[encounter.]を運営する一方、ウェブサイトからクラブイベントまで、美術展から雑貨屋まで様々なところに出没。』しているらしい。


クジ引きを3度もしている間に、19時30分からのトーク開始時間になり、司会者に呼ばれて席につく。僕はbook pick orchestraを主宰する一人である内沼晋太郎さんとのトーク。「アート系書籍の流通について」のゲストスピーカーとして今日はここにいる。
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会場からの質問と応援もあり、内沼さんの「アート本を流通させるぞ!」決意表明でシンポジウムは幕となり、トークの後はみんなでBankART NYKに移動して懇親会。ワイワイ、ガヤガヤ。この一連のディレクションをやりつづけている池田さんのエネルギーに脱帽。


定番のNYKのウッドデッキからの眺め。
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Posted by 森司 at 02:51 | 訪問記

内沼です。先日はどうもありがとうございました(200円本も3冊もお買い上げ頂きありがとうございます!book pickのいわゆる均一本コーナー、「SEIREKI BOOKS」といいます)。アート本流通の話、興味を持ってくれる人も多く、来年あたまから少しずつ実際に動きだしていければと思っています。ぜひご相談させてください。

Posted by uchinuma at 2005年12月20日 11:36











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