Dialogue Tour 2010
第8回(最終回):これは〈作品〉なのか? 〈作者〉はだれか?@梅香堂[プレゼンテーション]
鷲田めるろ/後々田寿徳2011年05月01日号
ツアー最終回となる大阪市此花区・梅香堂でのトークでは、鷲田めるろ氏に金沢でのCAAKの活動についてお話いただいた。さらに特別ゲストとして辻憲行氏をお招きして、80年代以降の山口のアートシーンとそこでの経験を語っていただくとともに、梅香堂亭主の後々田寿徳氏も交え、これまでのDialogue Tourを振り返りながら、そのテーマと2000年以降の美術について意見を交換した。
鷲田めるろ──CAAKは、Center for Art & Architecture, Kanazawaの頭文字を取ったものです。私は金沢21世紀美術館のキュレーターをしていますが、CAAKのボード・メンバーの一人でもあります。
CAAKの前史として、はじめに「いきいき荘」を紹介します。2007年に金沢21世紀美術館が主催して、「いきいきプロジェクトin金沢」というプロジェクトを行ないました。塚本由晴さんと貝島桃代さんによるアトリエ・ワンという建築家ユニットを招いて、半年をかけて金沢をリサーチするプロジェクトです。そのときに、彼らが金沢での滞在場所として一軒家を借りました。アトリエ・ワンのスタッフだった齋藤雅宏さんが半年間この家に住み、塚本さんと貝島さんは毎週、金沢にいらして打ち合わせしながらプロジェクトを進めていきました。
毎週末、塚本さんと貝島さんは金沢に一泊されることが多かったので、せっかくだからこのプロジェクトに参加してくれていた学生らとみんなでご飯を食べようということで、この一軒家に人が集まるようになっていきました。そのうちに、そこが「いきいき荘」と呼ばれるようになりました。21世紀美術館が滞在費を含むプロジェクト費をアトリエ・ワンに払い、アトリエ・ワンがこの一軒家を借りるというかたちでした。学生が多かったこともあって、皆で料理をつくって、パーティを毎週やっていくうちに、プロジェクトに関わった以外の人も来るようになって、だんだん人の輪が広がっていきました。当時、アトリエ・ワンは海外でもたくさんのプロジェクトをやっていたので、イスタンブール、アフリカ、中国など、一週間のあいだに見てきた建物や都市の風景、会った人などを、デジカメの写真を未整理のままプロジェクターに映して見せてもらうこともありました。少人数のクローズドな場所だからできる親密さがあって、それを目当てに来る人もいました。
それから半年が経って、美術館でのプロジェクトが終わることになりました。そのときに、このパーティを楽しみにしていた人が多かったので、この場所がなくなるのは寂しいという声があがりました。一軒家といっても借りるのにそんなに高いものでもないし、お金を出し合えばこの場所を維持できるのではないかということになって、家をそのまま借り続けることにしました。ここに常駐していた齋藤さんも、プロジェクトのためにアトリエ・ワンに雇われた人だったのですが、金沢で「いきいき荘」に住み続けることになりました。
そんなわけで、プロジェクトが終わっても拠点と人が残りました。そのときに、今後の活動のために、NPOとして組織化したらいいのではないかということで、コア・メンバーやスタッフを決めました。その結果、私を含めた6人のボード・メンバーが出資して、スペースの維持費やゲストへの謝礼とする、スタッフはイベントのときに料理やセッティングの手伝いをするという体制をとることにしました。さらに、メーリングリストを3種類──ボード・メンバー、スタッフ、告知用──をつくり、CAAKという呼称をつけて活動を始めました。2007年の暮れのことです。
それからは、不定期に、たとえばたまたま私のところに「金沢に展覧会を見に行くよ」と連絡をくれた人にCAAKでお話をしてもらって、パーティをしたり、アーティストが来たときの宿泊先として開放したりしていました[図1]。
そういうことを少しずつやりながら、パーティによく来てくれていた金澤町家研究会の水野雅男さんが、「金澤町家研究会で改修した大きな町家が空きますから引っ越しませんか」ということで、少し大きな町家を紹介してくれて、引っ越すことになりました。美術館から少し離れることにはなりましたが、広くなって家賃は安くなりました。あたらしい町家は二階建てで、1階は共有スペースです。雑魚寝に近いかたちですが、希望があればアーティストに宿泊先として提供したり、ふすまを取り払って以前のようにレクチャー&パーティをやったりしています。ときどき展覧会の企画をやることもあります。2階は3つに分けて、建築家ら3人にそれぞれ2万5千円で貸していて、それで家賃や光熱費、通信費を賄っています。つまり、2階の賃貸収入によってスペースが維持されている仕組みです。
レクチャー&パーティは、これまでの3年間で36回の開催なので、月に1回くらいのペースです[図2]。少し貯金ができて、交通費を出してゲストを呼んだこともあります。去年は、会場はCAAKではありませんでしたが、ほかの町家での展覧会をCAAKが企画しました。それから、金沢青年会議所が主催した、まちなかのスペースを使った展覧会「かなざわ燈涼会」で、岩崎貴宏さんという広島のアーティストの展示を企画しました。あと、kopoというアーティストランのアートセンターとの共同企画として、オランダからトマス・モンセスというアーティストを招へいしてkapoで3カ月ほど滞在制作するときに、CAAKを宿泊先として提供したりもしました[図3]。それから、もともとこの町家にあった雛人形を展示して欲しいという希望が金澤町家研究会や大家さんからあったので、毎年雛人形を出してひなまつりもやっています[図4]。