Dialogue Tour 2010
第5回:かじこ出航までのこと/これからのこと@遊戯室[プレゼンテーション]
三宅航太郎/蛇谷りえ/小森真樹/中崎透2011年01月15日号
ダイアローグ・ツアー第五回は、三宅航太郎、蛇谷りえ、小森真樹の3人をゲストに迎え、水戸のキワマリ荘にて、2010年の夏季限定ゲストハウス「かじこ」について話してもらった。聞き手は、キワマリ荘で「遊戯室(中崎透+遠藤水城)」を運営するアーティストの中崎透氏。3カ月半の運営を終えたばかりの彼らが口にする「かじこ」は、三者三様の姿を呈していた。
「かじこ」の3カ月半
三宅航太郎──「かじこ」というのは1日から滞在できるアートスペース、ようはゲストハウスです。ゲストハウスはビジネスホテルとは違って、トイレ/シャワー/リビングといった共有スペースがあって、いろいろな人と共同して生活するようなイメージのスペースです。僕らは2010年の7月16日から10月31日の3カ月半にわたって「かじこ」を運営しましたが、ちょうど同じ時期にすぐ近くで、瀬戸内国際芸術祭がありました。芸術祭の会場は瀬戸内海の7つの島と高松市で、空路だと高松空港への飛行機が東京と鹿児島と沖縄からしかないので、それ以外のアクセス方法は岡山を通る陸路です。その経由地になんらかの場所と仕組みをつくれば、いろいろな人が交わえる場ができるのではないかというのが当初のもくろみです。
かじこがあったのは、岡山駅から歩いて20分くらいの出石町という地域です。すぐそばには日本三名園のひとつ「後楽園」があります[図1]。駅周辺ですが戦災を免れたエリアで、最近は若い人が新しい店を出したり、古い路地や建築が残っていたり、趣がある街です。また、かじこの裏に流れている旭川は、 古くは岡山の県南と県北を繋ぐ物資を運ぶための高瀬舟の航路でした。そうやって、人やモノやコトが離発着する舟のようなイメージがこの場所をつくるときにあったので、家を舟にたとえて、そこに「かじこ」という名前をつけました。「かじこ」というのは舵取りをする人という意味で、誰もがその日その日に舵をとっていけるような場になればという意味を込めています。ロゴマークは舟のかたちをしていますが、逆向きにすると家になります[図2]。
かじこは2階建てで、1階に3部屋と中庭と廊下とトイレと風呂があって[図3]、2階は1部屋です。2階は増築されたような感じでちょっと新しいんですけど、かじこ自体は築90年ぐらいの建物と聞いています。屋根裏もあって、いっぱい本を置いて図書室的に使っていました[図4]。
機能1:滞在施設──イベントを企画して滞在費1,000円引き
三宅──かじこには大きく3つ機能があります。ひとつめは滞在機能です。旅をしている人だったり、岡山に友達が来ているから一緒に過ごすとか、目的はさまざまで、三カ月で計340人くらいが滞在しました。料金は、1日2,600円です。かじこの中で、イベントの企画ができるようになっていて、滞在する人がイベントを企画すると1,000円引きの1,600円で滞在できる仕組みにしていました。たとえば、瀬戸内国際芸術祭の参加作家が素麺を食べながら芸術祭の話をするというイベントとか[図5]、岡山の作家さんがFMを企画したりとか……[図6]。ガチガチのトークからゆるいイベントまで。
蛇谷りえ──基本的に別にアートだろうがそうでなくてもよくて、申し込まれた企画は来たらなんでも受け入れるスタンスです。ウェブサイトに日時や企画の送信フォームを用意していて、企画したい人はそれをもとに企画書を送ってもらうようにしていました。
中崎透──たとえば、「ナポレオンクラブ」という、ナポレオンというトランプを一晩だらだらするとか……[図7]。
蛇谷──中崎君のその企画はゆるゆるの最たるものでした。「トランプか……、これも1,000円引きかぁ」って(笑)。
三宅──108日間運営して、55個の企画がありました。普段からイベントをしている人がトークなんかをすることもあれば、いままでイベントをしたことがない人でも1,000円安くなるならということで、自分の好きな旅の話をしようとか、OLが自分の恋愛遍歴を語るとか、そういうイベントが生まれていました。ひとつ場所の性質として、ハッキングするというか、なにかをしたくなるような仕組みにしたいなと。
蛇谷──でも、滞在者全員がイベントに参加しないといけないわけではなくて、部屋が3部屋ほどあるので、イベントに参加したくないとか一人でいたい場合は、別室でのんびりしていたり屋根裏に逃げたりと、いろんな集合体があった感じでした。私たち3人は管理人だけど、イベントに積極的に参加しているというよりは、かじこ全体を俯瞰したところで振る舞っている感じで、イベントの渦中にいるのは主催者。
三宅──かじこのイベントレポートがウェブにあるのでそれを見てもらうと様子がわかると思います。このレポートは僕らが書いているところもありますが、基本的には、イベントに参加してくれた人に書いてもらうようにしていました。