Dialogue Tour 2010

第5回:かじこ出航までのこと/これからのこと@遊戯室[プレゼンテーション]

三宅航太郎/蛇谷りえ/小森真樹/中崎透2011年01月15日号

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機能2:レジデンス施設──住居に作品をインストール

三宅──ふたつめの機能として、アーティストが滞在して作品をつくる機能があって、僕らが4人の作家を招待してつくってもらいました。お客さんとアーティストが同じように滞在することで、アーティストもお客さんと交流しながらつくれたり、それによってお客さんも一緒にレジデンスしているような状態をめざしました。いわゆるギャラリーではなく生活する場なので、生活に寄り添って住居に作品をインストールするような作品を依頼しました。
 ひとりめの作家は西尾美也さんで、《ねまきっと》という作品をつくりました[図8]。不要になったシーツやタオルケットでできた寝間着のようなもので、複数人でも着ることができて、寝るときにもこれを付けて寝られるという作品です。
 二人目の下道基行さんは、滞在するたびに作品を落としていきました。ひとつは《消える残る》という作品で、三角形の手紙みたいなものが玄関に置いてあって、帰るときに持ってかえってもらうものです。

中崎──ちなみに彼は、2009年に、大阪の此花地区で、水都大阪に参加していたアーティストらが滞在先に使えるようにと、NPOが運営していたゲストハウスの管理人をそのNPOから依頼をうけて、1カ月半くらいやっていました。

三宅──かじこもゲストハウスのようなものなので、そのときの経験をもとにした体験談を織りまぜたエッセイが書いてあります。

蛇谷──かじこで読むのではなくて、持って帰って電車の中とか、家に帰ってから読んでぐっと来るような作品です。

三宅──もうひとつは《RIDER HOUSE》で、黄色い箱の中に写真が入っているんですけど、自由に見てもらえるようにと床の間に置いてありました。それから、お風呂までの道のりが書いてあるテクストを渡されて下道君の目線でそこまで歩いて行くという《見えない風景》と、かじこの「祝200人目」をどう祝うかというのを企画して、実際 200人目をサプライズパーティのように祝う《祝!200人目》というプロジェクトです。

蛇谷──200人目の人をどう祝うか、かじこのオープン時から下道君がアイデアノートを仕込んでいて、199人目までの滞在者たちが書いてくれました。200人目の方が訪れたのは9月中旬でしたが、その直前に下道君がやって来てみんなで準備をし、どっきりパーティをしました。下道君の作品はそのパーティだけが目的ではなくて、くす玉とか紙飾りの跡とか、場所の痕跡みたいなものを残すライブ感のある作品でした[図9]

三宅──3人目が西野正将さんという作家です。かじこの屋根裏に外の景色を切り取ったような小窓があって、彼はそれと同じ比率で縮小した木枠をつくりました。旅先でもかじこと同じように風景を切り取れるという《kajicomado》というもので、これも滞在者が持ち帰れるような作品です[図10]。50個くらいありました。それから、彼が滞在した2週間弱の間に訪れたお客さんを撮影しながらつくった《KAJICO CLIMAX》という映像の作品。
 それから、小田寛一郎さんという神戸の音の作家で、カセットテープとレコーダが置いてあって、そこに誰でも散歩しながら音や声を吹き込め、あるいは、他の人がいままで録音した音声も聞ける《散歩しながら心に浮かんだことをことばにする》という作品をつくってくれました[図11]


8──西尾美也《ねまきっと》


9──下道基行《祝!200人目》


10──西野正将《kajicomado》


11──小田寛一郎《散歩しながら心に浮かんだことをことばにする》

機能3:オープンスペース──地域との関係を紡ぐ

三宅──3つ目の機能は、オープンスペースです。これは金土日祝日だけの、誰でも入って過ごせる機能で、たとえばキッチンを使えるとか、本を読めるとか。イベントもそうですけど、県外のお客さんだけではなく、地域に住んでいる人にもきてもらうための仕掛けです。イベントがないときでもみんなで食事をしてわいわいしたり、屋根裏でのんびりしたり、毎日いろんな日々をおくっていました。屋根裏でご飯を食べたり、勝手にストレッチ体操が始まったり、ハンモックがあって、これは人気で……。みんなで花火したりとか[図12]。かじこには舵取りスタッフという手伝ってくださる方が20人くらいいて、コアで動いてくれたのが10人くらい。その人たちが、イベントがあると差し入れを持ってきてくれたり、日々の掃除を手伝ってくれたりしました。
 まわりの地域とのつながりでいうと、かじこはゲストハウスなので、滞在以外の機能を近所のお店に託していました。たとえば、お風呂屋さんと契約して、かじこに滞在するとちょっと安く入れるという仕組みにするとか。かじこは最大で8人くらいが滞在できるんですけど、8人だとシャワーも時間がかかるじゃないですか。でも、安く銭湯に入れる券があるとみんな行くので、シャワー代も浮くし、空いた時間で僕らは他の作業ができたり、いい相互関係ができていました。
 10月が終わって片付けをして、1週間ほど東京に来ていたりして、また岡山に戻ってスタッフと鍋を囲んで慰労会をしたりして、片付けも終えて三カ月前の姿に戻りました[図13]。それで、完全撤収して、いまここに来ました。


12──オープンスペースとして使われている屋根裏と中庭


13──撤収後の居間

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  • Dialogue Tour 2010とは

三宅航太郎

1982年生まれ。おもな活動に、「食事」の「おみくじ」=「おしょくじ」をつくっていくプロジェクト、顔面に建築を組み立てていく《顔面建築》、ヒ...

蛇谷りえ

1984年生まれ。大阪在住。2007年から3年間、築港ARC(アートリソースセンター by Outenin)のサブディレクターを務めた後、大...

小森真樹

1982年生まれ。東京大学大学院博士課程。芸術社会学/ミュージアム・スタディース。論文=「日本における『アート』の登場と変遷」(2007)、...

中崎透

1976年茨城県生まれ。美術家。武蔵野美術大学大学院造形研究科博士後期課程満期単位取得退学。現在、茨城県水戸市を拠点に活動。言葉やイメージと...