源氏物語では光源氏の須磨流謫が叙情豊かに語られます。多くの和歌を引用しながら織りあげられるその叙述は、古来、名文として読み継がれてきました。しかし、主人公が流離する物語は、光源氏に固有のものではありません。伊勢物語の昔男、竹取物語のかぐや姫、さらに源氏物語の玉鬘や浮舟といった女性たちなど、さすらう人びとの姿は、平安文学のなかに繰り返し語られてきました。そして、光源氏や昔男などの場合、その流離はかなわぬ恋と結びつけられています。平安文学において、恋とさすらいは、作品を形成する主要なモチーフのひとつであったということができます。
 平安文学における恋とさすらいは、個々の作品にどのように語られ、後代の作品にどのような影響を与えていくのでしょうか。本展では、國學院大學が所蔵する平安文学関係の写本や絵巻等の展示を通して、源氏物語と平安文学における恋とさすらいの系譜をたどってみたいと思います。