本展は「反復」と「偶然」という工芸やデザインを特徴づけるふたつの性質に注目し、国立工芸館の所蔵品をご紹介する展覧会です。
同じ動きの繰り返しで造形されるものや、同じ図柄を連続させたり幾何学模様を施すことは、洋の東西を問わずあらゆる工芸やデザインにみられます。たとえば、竹工や織物は「編む、織る」という反復動作が直接作品の形状や模様につながります。また、食器などでは用途の異なるものを同じかたちに揃えることで統一感が生まれますし、同じかたちのパーツで構成された物品は、見る人や使う人に心地よいリズムを感じさせます。
一方で、自然素材は木目や節の具合などひとつとして同じものがなく、制作工程での火力や温湿度、力の加減や歪みといった完全にはコントロールできない偶然性も工芸の特質です。この人為を超えた作用が、作品の味わいとなることも少なくありません。あるいは、本来均質な製品の量産を目指すデザインに、あえて偶然できたような風合いをもたせることで、量産品らしからぬ存在感が備わることもあります。
反復と偶然がおりなす工芸とデザインの多様な表現の魅力をお楽しみください。

<展覧会のポイント>
■日常的なふたつのキーワードから、工芸とデザインの本質に迫る。
なにげなく使う「反復」と「偶然」という言葉は、じつはものをつくるうえでとても重要なキーワードです。本展ではこのふたつの言葉を手がかりにして、工芸とデザインの本質をわかりやすく紹介します。

■反復と偶然、それぞれがもたらす印象や効果に注目。
同じパターンの繰り返しは空間的な広がりや心地よいリズムを感じさせ、一方偶然性は人為を超えた力の繊細さや神聖さ、時には力強さや荒々しさを感じさせます。作者の意図した(時には意図を超えた)効果に注目すると、作品の新しい魅力が見つかるでしょう。

■工芸とデザインは何が一緒で何が違うの?その関係を考えます。
職人的な技巧を凝らした一品制作の工芸と、均一な品質の製品を量産するデザインは、一見正反対のものづくりの姿勢に見えます。しかし「反復」と「偶然」という視点からながめると、そこにはある共通点や差異がみえてきます。

<展示の構成>
1. 反復 —繰り返しがうみだす模様とかたち
編んだり織ったりという反復動作により造形されたものや、幾何学模様や型染など同じパターンを繰り返す作品、統一されたデザインの食器セットなどを紹介します。
規則性があるものは見る人にリズムや安定感を感じさせますが、一見同じに見えるなかに見え隠れする微妙な差異など、見所がたくさんあります。

2. 偶然 —自然の素材と人為を超えたちから
全く同じものがない自然素材の特性を活かすことで唯一無二のものとなったり、土やガラスなどかたちをもたない素材が熱や火の加減により予期できないフォルムがうまれます。それらは完全に制御ができないがゆえに作品の魅力となり、儚さや神聖さ、あるいは大胆さや力強さといった様々な印象を想起させます。

3. 反復×偶然 —真逆の性質が融合すると…
前章まではどちらか片方の性質が強く出た作品を紹介しますが、じつは工芸やデザインはその両方の要素をうまく使い、組み合わせながらつくられています。デザインに偶然の要素を取り入れたり、規則的な模様にあえて変則的な部分をつくったりすることで、表現の幅が格段に広がってゆきます。