精進の人
 角りわ子さんは、私が住む信濃北御牧村の煉性の強い畑つちを頑固に焼き続ける作家だ。私が「精進百撰」を出版したとき、百点を越す大鉢、小皿を焼いてくれた。多数の読者が本の写真を見て誉めてくれた。料理ではなく、皿や鉢を。日頃から角さんの容器で暮らしていると、よそへ出たとき、かすかな寂寞をもてあますのが常である。あ、あの皿がないぞと思うのだ。形も色も独自で一見して洋風な線描画も陶のもつ東洋の地風を滲み出していて、まことに味が深い。個性の多彩さはまったく、精進の人だと思わせる。 
                              水上勉

勘六山房
 作家、故水上勉氏が主宰し、1993年に長野県東御市に作った工房。水上氏が最晩年の12年間を過ごし、執筆活動の他にも様々な創作活動を行った山房である。現在も、水上氏の思想に基づき、竹紙、陶芸をその場所の竹、土を使って制作している。

北御牧の土と角りわ子の芸
 陶土にいろいろな性質があるようだが、北御牧の粘土は釉と合えば、奥のふかいところがある。角りわ子はこの土の特質を掴んだ最初の陶芸家だろう。信州は昔から土にめぐまれない国だと聞いたけど、彼女の灰釉をつかった食器や、花器を見ていると、信濃で千年も眠っていた土の温かみを感じる。土は寄り添えば、人の心をぬくめるのである。そういう世界を、角りわ子はひとりで追求している。
                                       水上勉

角りわ子 陶歴
 1961年 鳥取県境港生まれ
 1984年 同志社大学文学部美学芸術学専攻卒業
 1988年 京都工業試験場 陶磁器研修本科、専科修了
 1988年 京都西山窯にて四年間修業
 1992年 京都ビエンナーレ入選
 1992年 タイ サイアムセラドン社にて一年技術指導
 1993年より長野県東御市 勘六山房(故水上勉氏主宰)にて作陶
      同地の土を陶土として使用
 1994年より東京、京都、神戸、大阪などで展覧会を開催
 2003年 魯山人記念/食の器展(信濃美術館)奨励賞
      日中文化交流協会会員 
       (文化交流団団員として94,97,04年に訪中)
      他、国内外で個展、グループ展多数。


 1995年の水上勉先生との二人展以来、当画廊への御出品は、個展・グループ展・小品展等約80回を数えますが、角さんの作品は、その度に新しい輝きを放っています。
 信州八重原高原の硬い山土を、京都清水で修業した技を駆使して個性あふれる作品に仕上げる。知的で目に美しく、手に取ると思いがけず軽く、温かくなじんで使いやすい角さんの器。「用」に基づきながら、そこに独自の「美」を結実させた角りわ子さんの作品世界をどうぞお楽しみ下さいませ。           
                      ギャラリーヒルゲート