1993年、東京から長野県小諸市に、翌年長野県東部町(現東御市)に移住した美術家島州一(しまくにいち・1935-2018)は、長野県境に連なる山々の南斜面の集落の中に居を構え、日々生活を重ねていきました。そこから南に広がる大パノラマを眺めると、左後方に噴煙を上げる浅間山がありました。
――私とこの土地を密着させるためのアイコン探しに10年は軽く過ぎたが、探求を続けるうちに浅間山がクローズアップされ私の意識を独占した
そう書いている島は、浅間山に魅了されたといって良いでしょう。2006年に浅間山をモチーフにした「ASAMAシリーズ」の制作、そして翌年の2007年より自らが日常着用しているシャツをトレースした作品《Tracing-Shirt》の制作を開始しました。
トレースは対象をなぞって写し取る技法ですが、情報過多の時代に対応する手段として1987年から島が行っていた表現手法のひとつでもあります。島は次のように書いています。「有り余る情報を任意にすくい取ってつくり直し、様々な異なる次元の情報を自分の網目でふるい直してパロディ化してみることも出来る。それは第二の自然である。すなわち情報の確認のために対象をつくり直して表現するパロディ用法である。」
この地での定住とこの地の象徴としてとらえた浅間山をモチーフとすることを、同意義的に行おうとしたとき、島のシャツが、トレースという情報確認の表現手法によって浅間山に見立てられ、《Tracing-Shirt》が制作されました。制作が困難になる2017年まで続けられたこのライフワークは、実に236点に及びました。
本展では、東御での晩年の25年で、浅間に魅了され、浅間山のトレースを10年以上も続けた島州一の代表作《Tracing-Shirt》を大々的に紹介します。