絵を描くということは、
私たちを取り巻く
あらゆる精神的・物理的な障害を
取り除く行為であったと思う。
——絹谷幸二*

 画家・絹谷幸二(1943–2025)は、1971年にイタリアへ留学し、西洋の古典的壁画技法のアフレスコを学びました。やがてキャンバスにアフレスコ技法を応用した下塗りを施すようになった絹谷は、キャンバス上に〈壁画〉を描いたといえるでしょう。
 アルタミラ洞窟や高松塚古墳等の古代の壁画から焼損した法隆寺金堂の壁画やベルリンの壁まで、様々な壁に関心を向けながら、絹谷は自身の画業を探求しました。
 壁は、風や外敵などから身を守るものであると同時に、「精神的・物理的な障害」でもあります。絹谷にとって〈壁画〉を描くことは、壁の持つ「人間にのしかかってくるすべての苦しみや災い」から人々を解き放とうと試みる行為であったといえます。
 本展では、アフレスコ技法やその応用によって描かれた絵画、そこから展開された立体作品を通じ、壁に描くことの意味を問い直します。

*絹谷幸二「壁の崩壊した日」『壁は二〇〇億光年の夢を見る』美術年鑑社、1992年、33頁。