「福沢一郎賞」受賞者に、福沢一郎のアトリエを個展会場として提供する「PROJECT dnF」。今回は女子美術大学大学院出身の伊藤夏実による個展を開催します。
伊藤は、重力や摩擦など「身体を介して受け取ることのできる触覚的で普遍的な力」を手がかりに、多彩な絵画制作を行ってきた画家です。近年は、モノとモノ、存在と存在どうしの力学から転じて、人間の歴史や文化的交流、そしてそのなかに息づく造形活動のすれ合いや衝突、響き合いに強い興味を覚え、国内外のアーティスト・イン・レジデンスに積極的に参加してきました。
画家は見知らぬ土地での制作をとおして、土地に息づく紙や粘土などの素材と、文化の根源ともいうべき文字や記号、パターンなどに着目し、自らのつとめて感覚的な所作をとおして、それらのあいだに生ずるさまざまな力と関係を表出させようと試みました。こうした試みによって生まれた作品群は、画家の生々しい感覚の集積として立ち表れ、生々しい形態と鮮やかな色彩、そして素材の触覚とともに、わたしたちに忘れ得ぬ視覚体験をもたらします。
今回の個展は、国内外で繰り広げてきた近年の活動を画家自身が問い直し、これからの歩みについて模索する、ある種の転機でもあります。アーティスト・イン・レジデンスの現場で重ねてきた制作の断片とともに、本展のために取り組んだ大画面の油彩作品が織りなす空間は、深い思考と洞察に裏打ちされた画家の力強い制作にふれる絶好の機会となるでしょう。この機会にぜひご覧ください。