金 光男(1987-)は、ワックスの上にシルクスクリーンでイメージを刷り、熱を加えて変容させる独自の技法で制作を続けています。2012年の活動開始以来、十数年にわたり同じ方法を磨きながら、自身の記憶や生活、そして世界との関わりを作品に重ねてきました。

髪を梳く櫛、身体を包む毛布やタオル、毎晩眠るベッド──身体のすぐそばにある身近なものは、金の作品のなかで、個人的な記憶や時間、生活の痕跡を宿す存在として現れます。熱によって溶け、流れるワックスの上で、イメージはもとの鮮明さを失い、時とともに薄れながらも、ふとよみがえる記憶のような姿へと変わっていきます。

写真の撮影から画像の調整、パネルの制作、ワックスの塗布、シルクスクリーンによる印刷、表面の仕上げまで、ほぼすべての工程が作家自身の手を通ります。一つひとつの選択と緻密な作業を積み重ねた先で、完全には制御できない熱とワックスの変化を受け入れること。その過程もまた、金の表現を支えています。

同じ技法を続ける一方で、作品に込められる意味は、作家の生活とともに変化してきました。自身のアイデンティティやルーツをめぐる葛藤から制作を離れた時期を経て、子どもの誕生を機に活動を再開。その後、祖母との別れをきっかけに、距離を置いてきた家族の記憶や自身のルーツに向き合い、長く続いたモノクロームの画面にも色が現れるようになりました。

本展「BREAK」では、十数年にわたる作品を通して、こうした表現の変化をたどります。メインビジュアルとなる《Break》(2022年)は、光が差し込むベッドの写真から生まれました。休息や愛、悲しみ、誕生と死がともにあるベッド。しかし、世界で繰り返される暴力を前に、安らかに眠れる場所という意味は、もはや当たり前ではありません。《Break》には、ジェノサイドに反対し、暴力の連鎖を断ち切り、すべての人が安らかに眠れる世界を願う作家の意思が込められています。

変わらない技法と、変わり続ける生活や世界。そのあいだで生まれてきた金 光男の作品を、ぜひ会場にてご覧ください。