橋本 唯瑶(2002–)は、日常のなかでふと視線を留めてしまう身近なものを起点に、絵画を制作しています。

マーガリンの凹凸、ハンカチに並ぶ水玉模様、何気なく掛けられた針金ハンガー──普段なら通り過ぎてしまう対象をあらためて見つめ、その色や形、質感に生まれるわずかな違和感や均衡を、作家は「ゆるい緊張感」として捉えています。

モチーフの細部を省き、拡大し、ときに単純化しながら描写の密度を探り、粒子の粗いジェッソの上に薄く溶いた絵具を幾層にも重ねることで、筆致をほとんど残さない均質な画面をつくり出します。視線を特定の一点へ導くのではなく、画面全体を行き来するようなまなざしを促すことも、作品を特徴づける要素のひとつです。

近年は、同じモチーフや構図を繰り返し描きながら、その一部にごくわずかな差異を加えた作品を並置しています。似た作品のあいだを視線が往復することで、それぞれの違いが少しずつ際立ち、私たち自身の「見る」という行為そのものがゆっくりと意識されていきます。

本展「GAZE」では、見慣れたものをもう一度見つめることから立ち現れる、新たな像や感覚を紹介します。対象に特別な意味や物語を見出すのではなく、その形や色、質感をただ見つめること。意味を与える少し手前で日常を見つめ直すことで、そこに潜んでいた新たな像が静かに立ち現れます。

日常のなかに潜む小さな引っかかりと、そこから広がる橋本独自のまなざしを、ぜひ会場にてご覧ください。