松元悠は、たまたま見知ったニュースや、法廷画家としての活動の中で出会った事件について、現地を訪れるなど独自の取材で想像を重ね、当事者を自身の姿に置き換えてリトグラフで作品を制作しています。版画史におけるリトグラフの報道性をベースにしながらも、ニュースと受け手の間を揺らぐようなファンタジックな画面構成も大きな魅力です。
本展では、初期から新作までのほぼ全作品を展示し、作品を通して立ち現れる作家の視点の広がりを捉えます。真実をめぐる本来的な理解が難しい他者の出来事とのオルタナティブな関係性を模索してきた松元は、自作が社会に発表されたその後に生まれる「後日談」にも注目し、当事者の聞こえない声や見えないものへの想像力を促します。

オープニングセレモニー&アーティストトーク
2026 年10月10日(土)
14:00~14:15頃  オープニングセレモニー
14:15~14:45頃  アーティストトーク
会場|黒部市美術館 展示室等 (*展覧会観覧券が必要)


展覧会に寄せて|
 報じられた出来事を起点に現場を歩くことをはじめて、10年ほど経ちました。
出来事の当事者と直接的な接触をせず、対話をもたないこの行為は、他者理解とは程遠く、野次馬のようなものです。
 私がやろうとしていることは、「情報を受信したその瞬間に湧き上がる想いは、いかにしてリアクションからアクションへと変容しうるのか。」「刹那的で間接的な情報から相手を想い続けることは、立場や距離、時間を超えてどこまで可能なのか。」といったもので、その衝動と問いからリトグラフ版画をつくっています。リトグラフは絵画の複製にとどまらず、図説や広告、漫画本、報道として活用された印刷技術で、その時代を生きる人々の生活に並走するように存在してきました。
 10年の間に少なからず自分自身も変化し続け、都度、つくったものに対して振り返りを行っています。同じ時代を共にする出来事、人に対して、その時の大切にしていた感情を何度も思い出しながら、本展ではほぼ全ての作品を出展したいと思います。一人の受信者が辿った形跡を、みなさまと並走できますと幸いです。

 松元悠



本展のポイント|
1) 現代版画(リトグラフ)の展覧会
黒部市美術館は日本国内における現代版画の流れをたどる作品の収集を行っていますが、本展は2019年「風間サチコ展 コンクリート組曲」以来の現代版画(リトグラフ)の個展となります。
 
2) 作家の公立美術館における、最大規模の個展となります。

3) 作品数とセクション
本展では、初期から新作までのほぼ全作品(約60点)を8つのセクションに分けて紹介し、作家の活動を多面的に体感できる、非常に見ごたえのある構成となります。各セクションは「ニュースと版画」「法廷と版画」「物語と版画」「産業と版画」「運動と版画」「日用品と石版画」「日常と版画」「版画の後日談」に分かれ、作家の置かれた立場の変化や、リトグラフならではの多面的な役割に触れながら、セクションを横断して作品を比較しつつ楽しんでいただけます。

4) ポイントセクション「版画の後日談」
松元が「今度は私自身がマス・メディアの立場に属し、イメージをつくる側になってしまった」と述べるように、作品発表後に生じるイメージの伝播と再解釈の過程に焦点を当てます。作品が社会の中で新たな受け手へと媒介されることで生まれる“後日談”を通じて、私たちが出来事をどのように受容し、向き合うのかを問いかけます。

5) 富山を舞台とする作品展示(「運動と版画」セクションにて)
1918年7月、米価高騰に苦しむ富山の女性たちが起こした抗議運動「米騒動」を題材に、作家が自ら富山の現地へ赴き取材を重ね制作した作品を展示します。地域で起きた歴史的出来事を現代の視点から捉え直す本作は、米価や生活の不安定さが繰り返し社会問題となる令和の今にもつながる課題を想起させ、私たちの社会や生活を見つめ直す契機を投げかけるものです。