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美術館館長の4割が女性に──スイス現代美術界のパワーウーマンたち

木村浩之

2011年05月01日号

ハイケ・ムンダー(Heike Munder 1969〜 ドイツ生まれ)
ミグロ現代美術館館長


Heike Munder, Director Migros Museum für Gegenwartskunst, Zürich, Photo : Marc Castelberg

 大学在学中の1995年にハンブルグ郊外のリューネブルグにおいてクンストハレ(Halle fuer Kunst)を立ち上げるという独立精神に満ちた彼女は、1999年にドイツの若手芸術家をサポートしているユルゲン・ポント財団の賞を受け、固定のスペースを持ち本格的な活動に入った。それからまもない2001年、32歳でチューリヒにあるミグロ現代美術館の館長に抜擢された。ミグロはスイス最大のスーパーチェーンで、銀行やガソリンスタンドまでを傘下におさめる巨大企業である一方、環境配慮のみならずタバコやアルコールは一切売らないなどの起業時以来のこだわりを持ち続けており、国際的にリテイル業界での高い評価を得ている企業である。文化面では、カルチャースクール経営やイベント・スポンサーリングなどと共に、現代美術に特化したこの美術館運営がある。この美術館はチューリヒの元ビール工場を改装したアートコンプレックス内にあり(現在は2011年秋のオープンを目指して増改築中)、現代アートだけで1300もの作品を所蔵する。そこに軒を並べるのが、クンストハレ・チューリヒ、エヴァ・プレセンフーバー・ギャラリー(現在フランツ・ヴェスト展、ディレクターは女性である)、ハウザー&ワース・ギャラリー(現在ルイーズ・ブルジョワーズ展)、ピーター・キルシュマン・ギャラリー(現フランシス・アリス展)などといえば、それ以上の説明はいらないくらいだ。そういった最高レベルの展示のみならず、定時ガイドツアーや家族向けプライベートツアー、そして各種ワークショップなどの各種教育プログラムにおいても独創性ある存在感を放っている。

ベアトリクス・ルフ(Beatrix Ruf 1960〜)
クンストハレ・チューリヒ館長


Beatrix Ruf, Director Kunsthalle Zürich © Mathias Braschler

 彼女は横浜トリエンナーレ2008のキュレーターであったので日本での知名度も高いだろう。それに加え、テート・トリエンナーレ(ロンドン、2006年、イギリス人以外では初)、リヨン・ビエンナル(2007年)などのキュレーター、スイス・リ社(再保険会社)、リンジャー社(メディア)などコーポレート・アートコレクションで知られる会社の芸術顧問を務めるなど、国内外に認識される存在となっている。スイス国内で現代美術に特化したインスティテューションとしては最も重要なもののひとつであるクンストハレ・チューリヒの館長に彼女が任命されたのは2001年。当時若干41歳であった。前任のベルンハルド・メンデス=ビュルギ(既出)はクンストハレ・チューリヒの立ち上げにも関わった人であったのだが、彼のバーゼル市立美術館館長への突然の栄転により、世界中から100以上集まった公募からの抜擢であった。彼女のディレクションにより、ネオ・ラウフ(2001年)、リチャード・プリンス(2002年)、イザ・ゲンツケン(2003年)、ダグ・エイケン(2003年)、クリスチャン・ホルスタッド(2004年、2008年横トリにも出展)、リアム・ギリック(2006年)などの充実したプログラムで年に5〜10件の展覧会を精力的に行なってきている。上記のミグロ現代美術館と同じアートコンプレックス内にあり、既出のマヤ・ホフマンの支援により現在増改築中である。
 もっともルフが館長職に就くのは、実はこれが初めてではなく、1998年から3年間、グラールス市立美術館の館長を務めていた。38歳での就任である。

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