フォーカス
夏休みのグループ展は若いキュレーターが力量を発揮する大舞台。悪ぶるアーティストたちのショウタイム!
梁瀬薫
2011年08月01日号
ニューヨークのアートシーンでは夏休み恒例となっているギャラリー展。画廊の取り扱い作家以外の若手アーティストなども召喚され、夏のグループ展は新人作家にとってのチャンスともなる檜舞台でもある。今年は国際色豊かなインディペンデント・キュレーターを起用し、社会的なコンセプトに沿った多様な内容の展覧会が印象的だった。
アル・ガイブ:エステティックス・オブ・ディサピアランス
Al-GHAIB: The Aesthetics of Disappearance
2011年6月30日〜8月30日
Stux Gallery
http://www.stuxgallery.com/
「アル・ガイブ:エステティックス・オブ・ディサピアランス(消滅の美学)」はイスラム現代美術展である。イタリア人女性キュレーター、ガイア=セリーナ・シモナッティがアラブ首長国連邦7国のうちのひとつ、シャルジャでオーガナイズしたグループ展だが、この夏その最新版がニューヨークに上陸。イラク、イラン、アゼルバイジャン共和国、イタリア、マケドニア、トルコ、ジンバブエ、英国、アメリカから参加した15人のアーティストの作品により構成されたもので、アメリカではあまり紹介されないイスラム教諸国の現代美術シーンを体験する、注目の展覧会となった。同展タイトルおよびテーマとなっている「アル・ガイブ」にはアラブ語で「見えざるもの」あるいは「未知の」といった意味がある。イスラム教では、神、つまり世界を定める力というものの前には、人間がいかに無力かを認知することを表わす。アーティストたちはこの難しいテーマのもと、それぞれコンセプチュアルな作品を展開した。キュレーターのシモッティは「アーティストとしてのエゴを放棄し、アートを根本的に形成するのが神の出現だと、ここでは解釈される。『ディヴァイン=神の裁き』による視覚的、知覚的価値の解放を支持する個々の美学の伝統的な観念を解消すること」にフォーカスを当てたと記述している。反サダム・フセインで抑留されたこともあるイラン人のサミ・アル=カリムの恐ろしい造形の顔の、何かを暗示するような合成写真作品《アインスタイン》、社会の問題を多岐におよぶ手法で、ユーモラスに啓示するアメリカ人のアダム=パーカー・スミスの《クラッシュ》(2011)など、どちらも得体の知れない人物が画面を飛び出して、見る者をおののかせる。作品には西洋文化の衰退、約束されたアイデンティティーの損失、地球との共存無視、真実や認識の可能性における根本的な疑念などなど現代社会が直面する問題を浮き彫りにする。しかしながらこの展覧会で、イスラム国への相対的な見方が変わるかどうか。
「Al-GHAIB: The Aesthetics of Disappearance」展より[筆者撮影]