フォーカス

「知らないこと」を起点に──竹田信平のマルチメディア・プロジェクト ALPHA DECAY α崩壊7

多田麻美

2012年11月01日号

共振し、ブレる声

 興味深かったのは、作品と現地とのつながりを深めるかのように、映画の上映後、観衆と監督との間でティーチ・インの場が設けられたことだ。表現の手法から、被災者の寛容さ、アジア人の歴史に対する態度まで、幅広い問題への疑問が寄せられた。そのやりとりには、深い共感に基づく作品と観客との共振、そして若干の抵抗、不協和音があり、そのいずれもが、作品が北京で上映された意義を深めていた。


[提供:竹田信平]

 前後するが、この「共振」および「ブレ」の部分は、映画の上映より少し前に始まった展覧会の作品とリンクする。その作品とは、竹田さんが証言者たちの声の振幅を作家が自ら感じ取り、そこで生まれる「共振」を、竹田さん個人の反応が生む「ブレ」も含めて、紙に写し取っていったものだった。




[撮影:張全]

 振幅は黒と赤の文字で綴られているが、赤色の部分は「記憶が編集された後に残るもの」に相当し、「記憶のなかの強弱、時間が経った後に人の記憶に残るもの」を表わしているという。数字は、記録が終わった時間だ。「何をどうイメージし、自分のものにするか」を追い求めつつ、「相手の経験が腑に落ちるようにしたい」と語る竹田さんは、「証言との共振」を通し、「実際その人は何を持っているのか」を追体験しつつ、その継承者となっていく過程を鮮やかに視覚化していた。

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