フォーカス
「ON/OFF」展、現在進行形のアーティストたち
多田麻美
2013年03月01日号
これまでの中国において、若手アーティストたちのグループ展は往々にして、グループや傾向、世代、ジャンルでひとつに括られ、個々の創作行為よりはその集団としての性質に注目が集まりがちだった。だが、そんな過去に疑問を投げかけ、個々のアーティストがいま、現時点で行なっている実践に、最大クラスとも言える舞台を提供したのが、今年の1月13日にユーレンス現代アートセンター(UCCA)で開幕した、「ON/OFF 中国の若手芸術家の観念と実践」展だ。
メディアと世相
「現代アートを通じ、観る者にある種の自覚意識を覚醒させたい」。企画者のひとり、孫冬冬がそう抱負を述べた今回の展覧会。その会場の入り口には、あっと驚く大きさの牛がいた。つねに空気が送り込まれる仕掛けのビニール風船で、真ん中は子どもが遊べるようなベッド状。その上にさらに子牛が乗っている。この「問題なし(No Problem)」と題された辛雲鵬の作品を見て、中国語を知る人なら、まず間違いなく「吹牛(牛を吹く)」という言葉を思い浮かべるはずだ。「牛を吹く」とは、「ほらを吹く」「大風呂敷を広げる」という意味の、ごく日常的に使われる表現。実はこの牛バルーン、「問題なし」のはずなのに、実際に人が乗ろうとすると、たちまちしぼんでしまう。実質を伴わない「はりぼて」的性質が強調された仕掛けは、当然のことながら、本当の実力に欠けた、根拠のない自信の顕示、誇張や虚栄を好む社会の風潮などを思い起こさせる。あまりに悠然、かつあっけらかんとしているがために、ただの無邪気な遊具にも見えるその巨体は、展覧会場の入り口で、小学生でもわかる言葉のイメージを不断に「膨らませ」つつ、さまざまな層の観客たちを、おおらかに受け入れていた。
そもそも今回の展覧会ではキュレーター2人が中国全土を駆け巡って候補となる作家のアトリエを訪れ、その作品を可能な限り網羅的に鑑賞、最終的に200人を超える作家のなかから50人に絞ったという。その作品の展示にあたっては、テーマ別の分類は行なわず、あくまで空間の配置を優先。だが入口ホールは例外で、大衆性、ニュース性、ゲーム性の強い作品が選ばれていた。
玄関ホールを占めていたもうひとつの作品は、呉俊勇の《七時》だ。新聞スタンドを象った枠組みのなかに国営テレビの7時のニュースや世の中のさまざまな現象が、言葉遊びや警句とともに並ぶ。右から見ると「右」、左から見ると「左」に見える文字が、二つの立場の相対性を表現。現在の中国における政治路線をめぐる対立を暗示しつつ、展覧会全体のテーマともリンクしていた。