フォーカス
「ON/OFF」展、現在進行形のアーティストたち
多田麻美
2013年03月01日号
多様化する敵
孫冬冬氏はこう語っている。「私たちは当時、いかにすれば芸術を、『わからないだけのもの』とせずに済むか、と考えていました。そこで共有できる『遭遇感』を提供することが必要だと思いました。交流を可能とする遭遇感です」。
工業用扇風機の生む巨大な風の抵抗のなかでペダルを漕いでプロペラを回すヘリコプター型の作品、唐狄鑫の《逆向》は、そんな遭遇感を社会のなかにおける個人の生存状態に重ね合わせた作品だ。また高圧電流を流した金網に細かいシャボンをぶつけた、黄然の《もしかしたら私たちはただ、物事に関心を持つ感じだけを気にしているのかもしれない》、作家自身の自虐的傾向を自白した陳哲の写真と筆記の作品、自分自身のやや虚無的な毎日をマンガ風に表現した温凌の《One Day in My Life》など、自己を顧み、自分をどのようにコントロールするべきかを取り上げた、内省的な作品も目立った。
それらの作品のなかにほの見える、「抵抗すべきだが抗いがたい何か」は、鮑棟が開幕式で述べた以下の言葉が、簡潔にこれを要約している。「前の代のアーティストと異なるのは、彼らが向き合っていた敵はひとりだったかもしれないが、今の代はより多元化していること。敵はもしかしたら、自分かもしれないし、自分が慣れ親しんだもので、多くの人がまだ意識していないことかもしれない」。
判断も傾向付けも回避
中国の現代アート作家を総括する展覧会は、UCCAでこれまで2回開かれている。まずは、開館のオープニングを飾る展覧会として、大きな話題を集めた、2007年の「85新潮」展。これは1980年代に旺盛な創作欲とともにひとつの隆盛期を築いたアーティストたちを取り上げたものだ。次が、1960年代末から1970年代生まれの8人のキーパーソン的アーティストを取り上げた2009年の「中堅」展。若手作家の作品を集めた今回の展覧会は、これらの系統を継ぐ、3回目の大型展覧会となった。
そんななか、今回、企画者たちが注意を払ったのは、「判断」をしないこと。つまり、簡単なキーワードで括るなどして、アーティストたちや展覧会に対する、固定した、方向性のある理解を観衆に促さないことだ。そうすれば誰もが、自分のスタイルで、それぞれ異なる角度から、若いアーティストたちのパワーを感じ取れるからだ。
網羅的とすることはできないにしても、今回の展覧会では、通常の画廊では発表できなかったであろうものも含め、現時点での中国の若手作家たちの構想が次々とバラエティ豊かに展開された。準備にあたっては、大量の予算がアーティストの材料費や製作費に回され、その額は同類の展覧会のなかでも最高だったという。
展覧会の準備風景を記録したビデオに「アートをめぐる理解は、アーティストによってさまざま」という言葉があった、そしてもちろん、アートをめぐる理解は観客によってもさまざまだ。それらがまさに50に掛け合わされるかたちで展開した今回の展覧会。実は、さらに海外へと乗り出す可能性も大きい。UCCA館長のティナーリ氏は、2011年の就任以来、大型の巡回展を複数実現させており、今回についても、国外の美術館と交渉中だという。
政治、軍事面でまだまだ厳しい情勢が続く日中関係。でもだからこそ、日本での展示が大いに期待される。