フォーカス
あらためて問う、芸術祭という場──さいたまトリエンナーレ リレートーク
柘植響(アートライター)
2016年05月15日号
芸術祭──アーティスト、スタッフ、鑑賞者が出会い鍛えられる現場
4者のプレゼンテーションのあと、帆足の進行で「国際展、芸術祭とは何か?」といったテーマ等で短いディスカッションがあった。「美術館と芸術祭とは、アートを見る体験として何が違うのか」といった問いに対して、まず芹沢が「美術館というホワイトキューブから美術を出したい。街中でアートに出会ってしまうという体験は、日々の生活の現場で想像力が萎縮している私たちにとって、よい刺激になると思う」と語った。港は「美術館との違いはエデューケーションにある」という。芸術祭をつくる現場において、アーティストと作品をつくりあげるためにスタッフ、ボランティア、参加者の間でコミュニケーション能力が鍵になる。また、「芸術祭は大きな船のようなものであり、地域で持続させるために、設営、宣伝、出版といった各役割を担う乗組員全員のエデューケーションが芸術祭では重要だ」と語った。最後は南條が芸術祭や関わる関係者、アーティストたちに現実的な提言をした。「芸術祭は街のなかで展開されるので、社会のなかでアートを見せることになり、厳しい批評にさらされるが、アーティストにとって経験を積むよい現場になる」という。同じ考えを持つ集団や組織が支配する閉塞的な社会というものは、「新しいものに挑戦することなく、その場で朽ち果てるだけであることは自明。芸術祭が経済の活性化だけなく、批評性を持つ他者と出会う新しいプラットフォームとなり、フレキシブルに開かれる精神の活性化の基盤となってほしい」と締めた。
それぞれの芸術祭が連携するといった話は特に聞かれなかったが、会期が同じようなタイミングであるだけに、その結果は全国に広がる芸術祭ブームの今後の展開に影響を与えることにもなるだろう。多忙なディレクターたちがそろったわけだが、会場との質疑応答の時間はなく、残りの時間はフォトセッションで幕を閉じた。なぜ日本では現代アートが地方自治体と共に地域経済の活性化をしなくてはいけない状況にあるのか、この時代の、この国のアートの意義についてディレクターたちはどう考えているのか。それぞれ趣旨の異なる芸術祭だけに、きっと答えも違ったのであろうし、どれが正解というものでもないが、聞いてみたかった。
あいちトリエンナーレ 2016 「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」
会期:2016年8月11日(木・祝)〜10月23日(日)
会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内・豊橋市内・岡崎市内各所
芸術監督:港千尋
チーフ・キュレーター(国際展):拝戸雅彦
キュレーター(国際展):ダニエラ・カストロ、服部浩之、金井直、ゼイネップ・オズ
キュレーター(映像プログラム):越後谷卓司、濱治佳
キュレーター(パフォーミングアーツ):藤井明子、唐津絵理
主催:あいちトリエンナーレ実行委員会
KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭 「海か、山か、芸術か?」
会期:2016年9月17日(土)〜11月20日(日)
会場:五浦・高萩海浜エリア、日立駅周辺エリア、奥久慈清流エリア、常陸太田鯨ヶ丘エリアほか
総合ディレクター:南條史生
キュレーター:四方幸子
主催:茨城県北芸術祭実行委員会
さいたまトリエンナーレ2016 「未来の発見!」
会期:2016年9月24日(土)〜12月11日(日)
会場:与野本町駅〜大宮駅周辺、武蔵浦和駅〜中浦和駅周辺、岩槻駅周辺ほか
ディレクター:芹沢高志
プロジェクトディレクター:伊藤忍、日沼禎子、三浦匡史、水田紗弥子、森真理子
主催:さいたまトリエンナーレ実行委員会
札幌国際芸術祭2017(SIAF2017)「芸術祭ってなんだ?」
会期:2017年8月6日(日)〜10月1日(日)
会場:すすきのエリア、狸小路エリア、円山エリア、札幌芸術の森、札幌市資料館、モエレ沼公園 ほか
ゲストディレクター:大友良英
SIAF2017スペシャル・ビッグバンド(企画チーム)
・バンドマスター(ゲストディレクター)大友良英
・調律(エグゼクティブアドバイザー)沼山良明
・バンドメンバー(参加メンバー)漆崇博、上遠野敏、木野哲也、坂口千秋、佐藤直樹、中島洋、端聡、細川麻沙美、マユンキキ(マレウレウ)、宮井和美、藪前知子
主催:札幌国際芸術祭実行委員会
横浜トリエンナーレ 2017
会期:2017年8月4日(金)~11月5日(日)
主会場:横浜美術館/横浜赤レンガ倉庫1号館
主催:横浜市、(公財)横浜市芸術文化振興財団、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会