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あらためて問う、芸術祭という場──さいたまトリエンナーレ リレートーク
柘植響(アートライター)
2016年05月15日号
今年9月24日から開催される「さいたまトリエンナーレ2016」では、プレイベントとして、1月16日(土)、3月2日(水)、3月13日(日)に3回にわたってリレートークが開催された。今年スタートする二つの新しい芸術祭も含めて、5人の代表の話が聞けるとあって、第2回の「アーティストから見るトリエンナーレ」(会場はコクーンシティ コクーン2(3F)コクーンホール[さいたま市大宮区])、第3回の「国際芸術祭の未来」(会場:JPタワー5FカンファレンスルームB[東京都千代田区]に参加した。
2回目はゲストに参加アーティストである音楽家の大友良英を招き、3回目は、南條史生(KENPOKU ART2016 茨城県北芸術祭総合ディレクター)、帆足亜紀(横浜トリエンナーレ組織委員会事務局プロジェクト・マネージャー)、港千尋(あいちトリエンナーレ2016芸術監督)が一同に会した。モデレーターとして芹沢高志(さいたまトリエンナーレ2016ディレクター)が務め、それぞれの魅力や特徴のプレゼンテーションのほか、「他者と出会う場」としての新しい芸術祭の可能性や課題について語りあった。
アーティストと芸術祭──想像力を刺激しあう体験
リレートーク第2回目の大友良英と芹沢高志のトークのテーマは、「アーティストからみるトリエンナーレ」。 芹沢が1989年にオルタナティブなアートスペース、P3 art and environmentを設立した当初から大友とは旧知の仲ではあるが、あらためてミュージシャンとして現在に至る大友の経歴を引き出しながら、「さいたまで何をやるのか?」という公開打ち合わせの形となった。
来年開催される札幌国際芸術祭2017のゲストディレクターにも就任した大友は、「表現者としてだけでなく、芸術祭を企画、運営する側としての手腕を問われる側になってしまった」と苦笑。とはいえ、2011年の東日本大震災のすぐあとに、故郷である福島でプロジェクトFUKUSHIMA!を立ち上げ、参加型ライブ「オーケストラFUKUSHIMA!」を成功させ、千住フライングオーケストラという市民参加型プロジェクトを足立区で継続するなど、市民を巻き込んだアートプロジェクトの実績は数多い。これまで即興音楽、ノイズ、フリージャズといった音楽ジャンルで屈指のプレイヤーだった大友が、「なぜプロではない人々と演奏するプロジェクトを始めたのか」という芹沢の問いに、「10年前に神戸市で障害のある子どもたちと始めた音楽ワークショップ(音遊びの会)が契機だった」と語った。不特定多数の人を巻き込んで音環境を作ることで重要なのは、「自分の判断価値を他人に押し付けないこと」という。そして、「子どもたちが音を出すための『場』の状況設定を考えることは、これまでの音楽家としての発想とは異なり、その気づきが表現者としてのターニングポイントになった」という。神戸で障害児たちと共に、演奏の『場』を作ったことが、その後に続くプロジェクトFUKUSHIMAへと繋がっていく。日常が壊れてしまった福島で、楽器を持ったことのない人が出す音もプロが出す音も同等に扱う「オーケストラFUKUSHIMA!」が誕生したのは必要に迫られたことだったと大友は言うが、結果それが思わぬ音楽の可能性と未来を引き出した。
9月からスタートする「さいたまトリエンナーレ」では、現在大友が関わる「アンサンブルズ・アジア」のプロジェクトでシンガポール、香港、タイ、インドネシアといったアジアのミュージシャンと住民とのワークショップが考えられている。芹沢は「ただ出会う、交流するのではなく、互いの想像力を刺激しあう体験が必要だ」と語った。近隣国でありながら互いに知らないアジア諸国の音楽家たちと「どんな体験をする現場」を作るのか、そして参加者たちとどんな対話をし、音づくりをしていくのかが注目される。近隣国からさいたまへ移住してきたアジア人と日本人との間にある相互理解の空白や文化交流の課題もはらみ、関東と福島の間に位置する「さいたま市」で、大友がどんなプロジェクトを立ち上げ市民を巻き込んでいくのか注目される。