2月のテーマは、「コタツでトーク−福岡・アート・アジア〜交流って何だ〜」(2月15日号掲載)というタイトルのアーティスト・トークを企画したこともあって、「交流の可能性」。実生活に基づいた「障碍(しょうがい)の美術」を追求している和田千秋さんにとって「交流」とは、「自分の価値観に揺さぶりをかけてくるような存在である他者と抜き差しならない関係に入ること」であり、モダニズムの文脈に則った作品展開を行う江上計太さんにとっては、作品の成果として「賜物のように成立するもの」。また、福岡アジア美術館でレジデンス中だったシンガポールのタン・ダウさんは、時間の後先はあるにせよ「アートはすべてコミュニケートするものだ」と熱く語ってくれた。「交流」をめぐる話題は尽きないが、今回のトークがそれぞれの作家の作品理解を深めることにつながったことは確か。 「交流」を、場や時間、体験を共有するなかから、自分とは異なる意見を認めあい、新たなものを生み出すこと、と考えると、体験者、当事者以外の人間がその実態を知ることが難しいという問題点も浮かび上がってくる。とはいえ、「交流」後に、その成果や反省点をまとめ、語り合う機会を持たないままでいたら、果たして「交流」の可能性は本当に広がりえるのだろうか。そう気になったことが「コタツでトーク」のきっかけだが、そうした折りに目にしたふたつのミニコミ誌を紹介したい。 ひとつは『ボランティア通信 』(現在3号まで発行)。「交流」を活動の中心に位置づけている福岡アジア美術館のボランティアさんたちが、自主的に意見や感想をまとめて発行しているもの。もうひとつは『宮司(アート)参道プロジェクト新聞 』(現在6号まで発行)。福岡県宗像郡の宮司(みやじ)地区で宮地嶽神社やその参道を会場に計画されている展覧会 (8月16日〜9月2日) 開催に向けて、現在地元の美術家を中心としたメンバーが行っているミーティング等の活動をレポートしたもの。どちらもモノクロで薄く、簡易印刷の地味な手作りだが、中身はずっしりとした手ごたえがある。『ボランティア通信 』を読むと、ボランティアさんたちそれぞれが美術館での体験を、まず自分自身の成長のために積極的に活用していることがうかがえる。こうした個人仕様の「交流」体験を伝えることは、きっと他の人たちの新たな「交流」の役に立つと思う。「交流」の可能性とは、こういうことなのではないだろうか。また、『宮司(アート)参道プロジェクト新聞 』からは「交流」のプロセスを重視しているプロジェクトの姿勢がはっきりと窺え、読む行為を通じて「交流」の輪が拡がっていることを実感することができる。
さて、3月のテーマは「生産する空間」。宮崎市出張の際、地元で子ども創作アトリエを主宰している美術家・藤野忠利さんが、長年収集した白髪一雄ら具体メンバーの作品などを保管、展示するために建てた「現代っ子ミュージアム」(昨年9月開館)を訪ねた。建築家・石山修武さんと藤野さんが3年近く話しあい、交流したすえに完成した美術館は、住宅でも、喫茶室でも、サロンでも、収蔵庫でも、アトリエでもある。入り口の切れ目から中庭に入ってみると、地元日向市の赤土でできた壁は何とも美しいサーモンピンク(訪ねた日が雨だったので、特に鮮やか)で、奇抜さよりもほっこりとした人肌のようなぬくもりが印象的。内部の空間は、人も作品も普段着の顔で出合える落ち着きと常識から解放される自由さが共存している。大半が木と土と紙でできた建物について30年もてば十分だと藤野さんは屈託なく語る。何かが生まれ、関係をむすぶ、消費する空間ではなく、生産する空間。この空間から広がる無限のネットワークが想像される。実際、この美術館に影響を受けた人々による赤土をつかった家づくり計画もあるとか。また今度は天気のいい日に訪ねてみたい。 4月には「川俣正コールマイン田川」プロジェクトで有名な筑豊の田川市に、同プロジェクト実行委員である地元の美術家・母里聖徳さんが、アーチ状の大きな穴蔵を利用して「オルタナティヴスペース[haco]」をオープンさせた。今後は同スペース内にコールマイン・プロジェクトの現地事務所が設置される。現在オープンウィークとして、山出淳也展やライヴが開催中。ここも新たな「生産する空間」になっていくことを期待したい。
入手方法:福岡アジア美術館内で入手可、無料 問い合わせ先:Tel. 092-771-8600 福岡アジア美術館 「宮司(アート)参道プロジェクト新聞」
入手方法:福岡市内の美術館、画廊等に配置、無料 問い合わせ先:Tel. 090-8228-5447(ただし連絡は午後5時以降) 宮司(アート)参道プロジェクト事務局・寺島 現代っ子ミュージアム
所在地:宮崎県宮崎市松山1-6-20 問い合わせ先:Tel. 0985-24-1367 現代っ子ミュージアム オルタナティヴスペース[haco]
所在地:福岡県田川市大字伊田2721 展覧会:「PROJECT No.18 sentaku 山出淳也」(2000年4月1日〜4月30日) 営業時間:Caffe time 11:30-18:00、Bar time 18:00-24:00 問い合わせ先:Tel. 090-959-70234 alternative space haco・担当ノザキ