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岡山  柳沢秀行
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exhibition開館20周年記念展 龍の國・尾道 〜その象徴と造形

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龍の國・尾道

 開館20周年に干支の辰年。これを好機とばかりに実施された展覧会。会場や図録冒頭に掲げられる「ごあいさつ」によれば「文化財、平面作品、立体作品、コンピューターグラフィック等の各ジャンルにわたり、幅広く東洋美術のなかの龍および龍的概念で制作された作品を展示」する試み。
 美術館での担当は梅林信二学芸員。98年の「観想の空間 マンダラ・尾道・曼荼羅」で、曼荼羅および地水火風に関わる古今の作品を集めて話題を呼んだ。もっとも美術館での担当と書いたように、この展覧会は監修に迎えた能勢伊勢雄氏に多くを負っている。
 能勢氏は、図録巻頭論文での肩書きはマルチメディアクリエーターだが、映像作家として高い評価を受けつつ、音楽、美術、コンピューター・カルチャーなど実に様々な領域でエディター、ライターとして活動。美術に関わる領域では、水戸芸術館での「アナザーワールド」「ジョン・ケージ展」の企画に協力者として関わっている。また岡山市内でライブハウス「PAPPER LAND」を主宰。ここは岡山の若手バンドの登竜門的な存在であるばかりか、能勢氏の人脈で「あ!」とか「え!」とか思うような様々なバンドやアーティストが登場する。また同所において長らく継続実施されている「岡山遊会」は、毎回様々な知的な話題を焦点にした一種の真夜中のサロンとして、実に深ーい議論がたたかわされているらしい(日曜勤務の公務員である私には土曜深夜から始まる同会に顔を出すのはあまりに辛く、それゆえあくまで「らしい」と推測しかできない)。
 同じ土地に住まうこともあり、「能勢さん」には私もお目にかかることはあるが、そのあまりの博学多彩ぶりは、私にとっては敬愛を飛び越えて、おそれおおい存在であり、「PAPPER LAND」のすぐそばにある岡山大学でも、能勢さんほどの頭脳の教員はまずいないだろうと思う。実際そう思っている教員も何人かいるのではないだろうか?
 さて、まず展示されている作品だが、会場は建物の部屋割りに合わせるように「現代の龍」「日本の龍」「尾道と龍」の3コーナー、それに「龍の現象学」とされる作品が随所に分かれて展示されている。
 その展示作品の幅の広さたるや! よく「○○から△△まで」という言い方があるが、この展覧会では、龍をキーにして、様々なパラダイムがあれやこれやと錯綜しており、いくつか挙げただけで、それを要約して伝えることなどとても無理なことがわかってもらえるだろう。
 例えば「大本教の教祖であった出口王仁三郎による楽茶碗:耀碗や大龍神図」「重要文化財の海北友松の雲龍図」「14世紀中国の画家月壷の作と伝えられる白衣観音」「ロンドンのアーティスト、マルコム・ポインターによる渋谷のPINKDORAGONの地下にあったというドラゴンのミイラのレプリカ」「森田子龍や上田桑鳩の書」「葛飾北斎や曽我蕭白の絵画作品」「鉾や舞楽面、扁額、拓本」「柴川敏之、谷脇哲也、三枡正典など地元作家の作品」「小林和作などの油彩画」「松本靖明などのCG」といった展示品。そのほかにもビデオ映像や音の作品もある。
 同じようなことは図録にもいえる。図録には通常の図版解説を除いても、「龍論」としての14本を含め、それ自体が作品となるテクスト、展示された作品の解説や注釈としてのテクストなど、20人を超える書き手による27本のテクストが掲載されている。まさに展示品もテクストも「龍に関わるあれこれ」が、通常の展覧会なるものを越えて繰り広げられているのである。
 さて、展示品を見てみると、私には「どうにか龍にひっかかるあれこれ」も若干はあるような気もするが、能勢さんの頭の中では「なにか龍にこじつけられればそれでよい」ようなものは、何ひとつなさそうだ。「ない」と断言せず「なさそうだ」と言うのは、正直に私の頭では能勢さんの頭にとても追いつかないから、「きっと能勢さんは全部つながって、それがそこにある意味がクリアーにみえてるんだろうな。僕には見えないけど」という意味である。
 そんな情けない状態ではあるが、あえて私なりに思ったことを二つだけ書きとめよう。
 まずひとつは同業者として「このコンセプトや構成の展覧会でよく作品借りられたな」裏を返せば「こんな展覧会やって大丈夫なのかな」と担当学芸員の立場を心配してしまった。
 常識的には現代の、それもサブカルチャーと位置付けられるものと、古美術品を併置するのは、古美術品所蔵者の理解がないと難しい。それも仏像など宗教的な性格をもつ作品はなおさらである。今でも「目くそがつく」として公開を嫌うコレクターもいれば、社寺の所蔵品は檀家など関係者のコンセンサスが取れないと住職さんの個人的な判断では出品がままならない場合もある。
 それから宗教がらみで、もうひとつ「大丈夫かな」と思う点もある。能勢氏の巻頭論文「何かに導かれた龍展」は大本教や日本古来よりの神道界、神話世界、それに風水から現代科学までを巡りながら、そうした精神世界と、この展覧会に並ぶオブジェ達との関わりを述べている。この中で、特に大本教から日本の神道界、神話世界へと話が進む中で、通常私達が意識しない(と言うよりまるで知らない)諸現象の明確なつながりが浮上してくる。私達が意識しない、知らないというのは、逆に言えば、隠蔽されていて、その隠蔽の構造を自覚しながら調べないとわからないということであろうから、これを極所ながらも書きとめた論考はとても刺激的で面白かった。
 ただこれがこと宗教に関わるものだから、宗教にとても敏感な行政施設である美術館発行の図録の巻頭においた担当者の勇気たるや拍手ものであり、それだけに大丈夫なのかなと心配してしまうわけである。
 さて私なりに思ったことの二つめ。
 特に「PINKDORAGONの地下にあったというドラゴンのミイラ」や、能勢氏が論稿に書きとめた「私の細君は、この肝川龍神の御神体であり車の小房に神懸かった金龍姫大神、一方、私は大野大陣大神という天界の立分け的働きをする神霊体であることが明らかにされた。」という二つの事柄を主として思ったことである。
 この二つの事象を「嘘だ。ほんとだ」と議論するパラダイムに最も敏感であり、それが「ほんとでなければいけない」権威が支配的な場が美術館である。だから通常の美術館の感覚からすれば、美術館での展覧会という場でこのオブジェや言説が露出することはまずないだろう。それにそんな通常の美術館の感覚からすれば元伊勢・籠神社から出品された二つの古鏡が、オリジナルではなくレプリカでありながらも、能勢氏は「国宝の『息津鏡』『邊津鏡』を同時に展覧していただけることはこの美術展をディレクションしてきた者の無上の喜びである。」とまで述べるのも、ちょっとわからないものでもある。
 もっともこの展覧会に関しては「それがほんとだと実証しろ。レプリカ見せて何になる」と詰め寄ることなどもってのほか。「それが嘘だほんとだ」と議論するのは野暮と言うか、そういう議論をしていたら見えなくなってしまう世界が取り上げられているのである。取り上げると言うと、その見えなくなってしまう世界をメタレベル的に見渡すように提示するような語感があるが、それも異なろう。この展覧会は、その世界そのものに接触させる仕掛けとでも言えばよいのだろうか。すくなくとも「それが、嘘だ。ほんとだ」という議論をするパラダイムが存在しない世界というものがあり、この展覧会は、そうした世界に依拠しているということだ。
 そんな態度があまりにも当たり前の大前提としてあるから、従来の美術館からすれば、あまりにも異種な取り合わせも、造形的な完成度の高低の混合も、さして気にならない展覧会であった。しかしその大前提もひとつのパラダイムであろうから、それを受け入れられないものからの、いらぬ突込みがはいることもなく、私の思ういろいろな「大丈夫かな」がただの危惧に終わってくれることを願っている。
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会場:尾道市立美術館  広島県尾道市西土堂町17-19
会期:2000年3月18日〜5月7日
問い合わせ:Tel. 0848-23-2281

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report学芸員レポート[岡山県立美術館]

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私も当事者である「MEATS」にNPO法人格の認証がなされた。おそらく全国でも初であろう、特定の団体や表現領域に限定されず広く文化サポートを行うことを主目的とするNPO団体が正式に発足した。
 すでに助走がてらに「MEATS」が目指す活動の雛型はそれぞれスタートしているが、その本格的な活動の第1弾として、すでに全国各地で30回にせまる開催実績をあげているトヨタアートマネジメント講座が、新たなステージに突入する「チャレンジ編」の先陣を「MEATS」が担うこととなった。
 これは6月から11月にかけてのロングランプログラムで、講座形式のスクーリング以上に、実践的なマネジメント業務に重きをおいたもの。美術展やコンサートの開催を目指しながらも、特に予定調和的に確定されたイベントを遂行するのではなく、自分達の能力や資源(もちろん他人の能力や資源を動員することも含めて)を点検、フル活用して、ネタ作りから立ち上げてみようというものだ。その間、「MEATS」メンバーが伴走しながら、それぞれが持つノウハウを如何なく、それも格安で提供(なんと受講費一人5000円)してしまう。早くもメンバーの中では、誰がどの講座を担当するかより、誰が他の誰の講座を受講するかの調整が始まっているほどの充実した内容だ。
詳しくはhttp://www.meats.to/meatsindex.htmまで。

ミーツドローイングカフェ……1999年11月15日号

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