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北海道  吉崎元章
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exhibition高みきお展

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高みきお展

高みきお展
作品(部分) 

高みきお展の案内状
高みきお展の案内状

 札幌の都心から少しはずれた所に今年5月にできたばかりのギャラリーで開かれた展覧会。このギャラリーは21〜23歳の若いスタッフが企画をつとめ、今回個展を開いた高みきおも21歳の若いアーティストである。 皆、札幌で現代美術家を養成するリーセントアートスクール出身であり、現代美術としての自己表現、アプローチなどのノウハウをにくいほどに心得ている。
 高みきおは、2週間の会期中、会場の3壁全面に貼られた大きな紙に延々と青ボールペンで絵を描き続けた。紙のサイズは、高さ2.2メートル、幅約7メートルと3.5メートルと5.5メートルの3枚。朝10時から夜10時までにわたって行なわれた制作の様子も見せようとする企画である。僕が訪れたのは最終日前日の夜であったため、すでに3枚目に取りかかっていたが、初日近くに訪れた人はほとんど真っ白な紙と描く彼の姿のみ目にすることになったことだろう。
 紙の上には、細かく幾重にも分割された大小の立方体が、大きな遠近を生みながら連なり広がっている。手書きによるゆがみと意図的な湾曲が心地よく連続し、不思議な世界をつくりあげていた。完成時のイメージを持たずに、その時々の気持ちで部分部分を描いていると語るが、その作品は、機械的なパーツが意志を持ち、増殖していっているという表現がぴったりである。その世界観は、彼がマンガ、アニメ、ゲーム、特撮映画などで育った世代であることとは無関係ではないだろう。
 会場には彼が日頃描きためたノートも数冊置かれていた。やはり主に青いボールペンで、SFチックなモンスターや四コママンガ、その時々の気持ちを綴った文章で埋められている。この落書きとも言える飾らない描写、ごく自然に手を動かしていくことが彼の表現の源であり、今回の作品もまさにプライベートなノートのはしり書きが飛び出し、サイズの制約を超えて巨大な紙に無限に展開していったような感がある。落書きといえば、いま日本で巡回展の開かれているキース・へリングが、地下鉄の広告看板などへの落書きからブレイクしたアーティストであることはよく知られている。しかし、ニューヨーカーほど街なかの落書きを目にしない日本人にとっては、やはりノートへのいたずらが書きの方がはるかに親近感がある。つまらない授業中、あるいは試験勉強中に描いた絵についつい夢中になり、凝った絵になってしまったことが誰でも経験があることであろう。高みきおは、そうした感覚の延長線にあるように、青ボールペンという日常的な道具を使って、紙の上に無限に広がる世界をつくりあげていくのである。
 これまで北海道では、厳しい自然環境が関係しているかどうかはわからないが、不思議と遊び心のある作品を制作する作家がほとんどいなかった。「高みきおによる高みきおによる高みきおのための…」というサブタイトルやDMのデザインなどにも現れているとぼけた感じが彼の持ち味であり、彼の世代の感覚を表現できる作家であろう。これからの活動がとても楽しみである。とくかく2週間おつかれさまでした。
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会場:gallery ZooMit
   札幌市中央区南3条西9丁目エイコービル1階
会期:1999年8月10日(火)〜8月22日(日)
   10:00〜22:00
問い合わせ先:011-232-8397

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exhibitionアート アンド ガーデンスペース'99滝野

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上遠野敏「霧のインスタレーション」
上遠野敏「霧のインスタレーション」

畑俊明「S-Kサークル」
畑俊明「S-Kサークル」

 「日本の滝100選」に選ばれている札幌郊外のアシリベツの滝。お盆の時期に行なわれるこの滝のライトアップに合わせて野外美術展が開催された。駐車場から滝までは歩いて20分ほどの園路沿いの橋げた、小川、森のなかに11点の作品が展開された。この広大な自然公園は、日中、森林浴や水遊び、バーベキューなどを楽しむ家族連れなどでにぎわい、会期の4日の間におよそ23500人の入園者があったという。夜間だけでも3500人の人が訪れており、その多くは滝のライトアップが目当てであろうが、現代美術にあまり関心のない人にも作品に接してもらういい機会となったことだろう。家族連れなどが各々の作品を無条件に楽しんでいたのが印象的であった。出品作家は2人のゲスト作家を除いて札幌市立高等専門学校の教諭である。それぞれの専門が美術だけではなく、陶芸、建築、環境、デザインなどであるため、舞台装置のような作品や野焼きなど通常の美術展とはひと味違う作品も並んだ。野外美術展では、屋外に作品を設置する意義や、その場との関わりが少なからず必要であり、ここの場合、ロケーションを生かして自然との関わりが重要になってくる。また、夜間公開を前提に制作されているため、多くはロウソクやかがり火、照明などを組み込んだ作品であった。なかでも目を引いたのは、上遠野敏と畑俊明の作品であった。小さな穴をあけた細い透明のホースを樹木に巻き付けて霧を発生させライトアップした上遠野敏の「霧のインスタレーション」は、森の神秘性を際だたせ、巨大な円形の鉄枠に火の焚いたダイナミックな畑俊明の「S-Kサークル」は、原始的な人の営みなかに改めて自然との関わりを見せた。
 恵まれた自然環境におけて作品を通して自然と人との関係を提示する好企画なだけに、札幌市立高等専門学校の教諭という枠をはずれ、より多くの作家の参加を得ることによって、さらに可能性が広がることであろう。
 なお、僕は最終日の昼に見に行ったが、多くの作品はまさしく昼行灯であり、もう一度夜に出直すことになった。もし来年も開催するのならば、夕暮れ以降に訪れることを強くお勧めします。
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アート アンド ガーデンスペース'99滝野会場:国営滝野すずらん丘陵公園
会期:1999年8月12日(木)〜8月15日(日)
   90:00〜21:00
アーティスト:伊藤隆介、端聡、上遠野敏、川人洋志、斎藤利明、島田正敏、畑俊明、
       羽深久夫、吉田恵介
問い合わせ先:(財)公園緑地管理財団 滝野管理センター 011-594-2222

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report学芸員レポート[札幌芸術の森]

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「森のなかで、野付牛にふれる」
 今年の北海道の夏は、異常といえるほどむし暑い日が続いた。そうしたなか短い夏を謳歌するように各地で野外美術展など興味深い展覧会が開かれた。「刑事と学芸員は足で稼ぐ」と誰かが言っていたが、北海道の美術の現状を把握するうえで学芸員として見ておかないわけにはいかない。特におもしろかったのが、北網圏北見文化センター美術館で開かれた『オホーツクのエッジから〜三つのベクトル「林弘堯+岡部昌生+田丸忠」』と、それに合わせ行なった岡部昌生のコラボレーション「森のなかで、野付牛にふれる」である。タイトルだけからすると、生きた牛に触るパフォーマンスのようであるが、「野付牛」とは北見の旧名であり、美術館横に広がる野付牛公園の原生の樹木の肌をフロッタージュするものであった。北見市民が子どもを含め約80人参加し、二日間かけてさまざまな木肌を鉛筆で擦り取り、それぞれファイリングして、森の中にこしらえた長さ70メートルの展示台に並べ、森の美術館をつくりあげた。35度を超す猛暑のなかでの作業で疲れたと言いながら、普段とはちがう何かを感じたような生き生きとした子どもたちの表情と、木漏れ日のなかに続く展示台の美しさが心に残った。
 これは、この美術館に昨年赴任した学芸員が、最初から手がけた初めての企画である。また、10年目を迎えるこの美術館にとっても初めての現代美術の大規模な展覧会である。今後も現代美術の展覧会を開催していきたいと語るが、今回はこの地域の現代美術のオールスターを集めただけに、今後どのように展開していくかが楽しみである。片道5時間の経路を日帰りするのはやはりつらかったが、学芸員の熱意あふれるいい企画と出会え、出品作家や地元の関係者とおいしいオホーツクビールが味わえたので、大満足。
 話は変わるが、北海道では最近、特に20代前半の若い作家の作品がおもしろい。今回紹介した高みきおのほかにも、家族間のプレゼントをそれぞれ年を追って本仕立てで見せた新明史子(テンポラリ ースペース、7/19-7/31)、寒別グラウンド・アート展やギャラリーSEEDの個展で鉄板や白い布を用いたコンセプチュアルな作品を発表した出田郷などに、北海道の美術の新しい動きを感じる。

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