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東京  荒木夏実
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exhibition畠山直哉展 UNDERGROUND

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渋谷川地下水路シリーズ写真の1点
渋谷川地下水路シリーズ写真の1点
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 ギャラリーに入ると、一瞬不安に襲われる。正体不明なものや未知なる空間に対する本能的な反応としての不安である。110cm四方の9点の写真に現れた奇妙な光景は、畠山が渋谷川の地下水路を辿って撮影したものである。赤茶の泡のようなものや、虹色の油膜のような流れ、黒っぽい石かゴミに付着した白い結晶のような物質、その上に散らばるあやしげな赤い斑点…。なぜ「のような」が続くかといえば、それらが何であるのか判然としないからである。被写体の切り取り方やフラットな感じの焦点の当て方によって距離やサイズの感覚が失われていることも、わからなさを助長する要因になっている。その中に、舞飛ぶ蚊の群や地面に生えたカビらしきものを撮った写真があるのだが、これらの「生物」の存在にほっとさせられるから不思議である。普段は気にもとめず、ましてや愛着など感じるはずはないのに。
 かつて渋谷川を撮ったシリーズを発表した畠山は、今回さらにその下にある地下水路の闇に潜った。ゴミや汚水の漂うこの人工的な洞窟の中に、人間を寄せ付けない大自然を、聖なるものを感じたという。光のない地底の世界で有機的変化が続き、生命の営みがあり、静かな平和がある…。その数メートル上の地表は渋谷の雑踏であり、果てしない人間の欲望が渦巻いているのであるが。都市と自然、聖と俗は畠山の写真の中で矛盾することなく存在している。
 展覧会後期では、ディティールを写した前期と少し視点が変わり、地下水路の空間(トンネルの入り口など)を撮影した写真が展示される。前・後期ともじっくり見たい展覧会である。
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畠山直哉展 UNDERGROUND会場:ハヤカワマサタカギャラリー
会期:前期:1999年9月4日(土)〜9月25日(土)
   後期:1999年9月28日(火)〜10月16日(土)
問い合わせ:03-5457-7991


exhibitionメディテーション――真昼の瞑想

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イケムラレイコ「黒の中に青いミコと」1997 「黒の中に青いミコと」1997
イケムラレイコ
「黒の中に青いミコと」1997

木村繁之「記憶の器 15」1998
木村繁之「記憶の器 15」1998

写真:栃木県立美術館
 奇をてらうことなく、日本の現代美術の面白さをじっくりと味わうことのできる深みのある展覧会であった。平面と立体を含む14人の作家による作品が展示されていたが、今回のテーマを考えるのであれば、絵画作品により強いリアリティーがあったように思う。およそピクチャレスクから遠い、遠近感のないのっぺりとした風景を描く林田直子、一見「かわいい」が薄ら寒いものを感じさせる杉戸洋、漆黒の闇をバックに病んだムードが漂うイケムラレイコ。中でも小林孝亘の作品は、まさに白昼夢のような不安と不思議な充実感が同居した、強烈な存在感を訴えるものであった。あれほど光に満ちあふれているのに、そのすぐ先に底なしの闇と死の影すら予見させるのはなぜだろう。ペインティングならではの虚構性が、強い力を発揮していることを感じた。
 一方、首筋を伸ばした端正な外国人の顔が並ぶ舟越桂の彫刻には、どうしても説得力を感じることができなかった。瞑想の抽象性を阻む要素が強すぎるように思える。
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会場:栃木県立美術館
会期:1999年7月1日(日)〜9月26日(日)
問い合わせ:028-621-3566
参照:同展覧会レヴュー……福島/木戸英行


report学芸員レポート[三鷹市芸術文化センター]

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 先日、平塚市美術館学芸員の端山聡子さんと、新潟県の小国町という場所を訪れた。端山さんは今でこそポピュラーになった美術館ワークショップ活動の草分け的存在で、素材に密着したユニークなプログラムを数多く企画している。今回の旅の目的は、5年前に彼女がワークショップを依頼した和紙の作家坂本直昭さんの展覧会を見ることであった。
 坂本さんは10年前からこの田舎町で紙を漉き、東京の文京区で営む和紙の店「紙舗直(しほなお)」と小国町を行ったり来たりする生活をしている。期待せぬままに展覧会場近くの坂本宅を訪れてみると、幸いご本人がいらっしゃってお茶に呼ばれることとなった。和紙のある生活を体現した彼の家は、床や壁、カーテン、テーブル、座布団にまで紙が使われている。その実用性と優れたデザイン性にはすっかり感心させられてしまった。夏でもさらっとした清涼感があり、目にも美しい。坂本さんは和紙の伝統をありがたがったり神秘化するのではなく、後継者がないまま急速にすたれていく紙漉きの工房から定期的に紙を買い上げ、それを売るという活動を積極的に行っている。買う人、使う人がいなければ紙漉きは絶えてしまうからだ。買ったものの、売るめどがつかず非常に苦しい時代もあったという。最近はお店の経営も軌道に乗り、坂本さんがいなくなっても誰かの手によって店が続けられるようにとの考えから、賃貸ではなく自社のスペースを買ったのだそうだ。
 「45から55歳ぐらいの層の人間が、若い人のためにリーダーシップをとってあげる必要がある」と、50を過ぎた坂本さんは語る。真の責任感をもった人だと思う。アーティストとしての自由な表現をもちながら、周りの人たちのこと、これからの文化のことを考えて着実に行動している。経済活動を含めて、地に足のついた健全な姿勢がうかがえる。彼の人間的魅力とカリスマ性によって多くの人たちが動かされてきたのだと思う。ちなみに彼は大変なハンサムでありながらまるで気取りがなく、50過ぎと思えない少年のような雰囲気をもっている。「美しい」人に会ったなあという印象である。いや、本当は「めちゃくちゃいい男!」という興奮のほうが先にあったのだが…。
 日本にもまだまだ前向きで素敵な人がいる。希望のもてる出会いであった。

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