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福島  木戸英行
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exhibitionメディテーション――真昼の瞑想:90年代の日本の美術

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戸谷成雄「〈境界〉からV」1997-98年
戸谷成雄「〈境界〉からV」1997-98年

戸谷成雄「〈境界〉からV」1997-98年
戸谷成雄「〈境界〉からV」1997-98年

小山穂太郎「Phantom/--逃げ水--」 1998年
小山穂太郎「Phantom/--逃げ水--」
1998年

 前号の展覧会/イベント情報で開催前に本展を紹介したが、今回は実際に展覧会を鑑賞しての感想を書きたい。
 展覧会を見てまず思ったのは、前回自分が書いた「私小説的な作品の系譜」という括りは、書いたのが展覧会オープン前だったとはいえ、少し早計だったなという反省である。展覧会では出品作品をまとめるキーワードとして「ひきこもり」という言葉がもちいられていた。ひきこもりとはいささか不穏な表現であるが、現代消費社会にあって自己を見失わないための賢明な選択として積極的な意味をもたされた言葉である。実際のところ、4部構成のうち、ひきこもる「私」、ひきこもる詩想と題された第1部と第2部は、イケムラレイコ、小林孝亘、木村繁之、舟越桂など、再現的なイメージをもちいる内向的な作品で知られる作家たちが出品されており、ここまでは事前の筆者の予想と期待を裏切るものではなかった。「ひきこもり」も言い得て妙という感じがしたし、私小説的という括りも、適切ではないにしても大間違いというほどでもない、とひとまず安心できた。これに対して大きく予想を裏切られたのは残りの第3部と第4部である。このセクションは戸谷成雄、小山穂太郎を中心とした構成で、彼らの仕事をひきこもりに関係づけることには違和感がぬぐえなかったが、これはいい意味での破綻というべきものであった。まず、深く水平に穿かれた穴と、その反対側で穴と陰陽をなすかのように細長く伸びた木柱の、全長20メートルにおよぶインスタレーションを見せた戸谷成雄である。表面を覆いつくしたチェーンソーによる無数の刻み傷が放つ、曰く言い難い痛みの感覚は、ひきこもりと呼ぶにはあまりに圧倒的な存在感を立ち上らせていた。対照的に、小山穂太郎の空を写した16ミリフィルムを壁に立てかけた大きな鏡にエンドレスで投影しつづけるインスタレーションは、抵抗感や存在感とは反対に、雲一つない青空を無為に見上げる瞬間に特有の不確かな浮遊感にも似た、よるべのない生身の知覚の危うさといったものを感じさせ、戸谷成雄の作品とともに強烈な印象を残した。
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アーティスト:イケムラレイコ、綿引展子、小林孝亘、富田有紀子、杉戸洋、木村繁之、柄澤齊、加藤清美、
       艾沢詳子、保田井智之、戸谷成雄、舟越桂、小山穂太郎
会場:栃木県立美術館 栃木県宇都宮市桜4-2-7
会期:1999年7月11日(日)〜9月26日(日)
開館:9:30〜17:00 休館日=月曜日、祝日の翌日(7月21日、9月16日、24日)
入場料:一般800円/大高生500円/中小生200円
問合せ先:028-621-3566
参照:同展覧会レヴュー……東京/荒木夏実

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exhibitionリビング・ブリッジ:居住橋――ひと住まい、集う都市の橋─展

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リビング・ブリッジ:居住橋――ひと住まい、集う都市の橋─展
 これもすでに終了した展覧会なのだが、面白かったのであえて報告を書きたい。居住橋とは、橋の上に屋根付きの構造物を建てる、というより建物をそのまま橋にして、交通のためだけでなく、その上で生活できることを目指した建築のことを指す。12世紀から18世紀にかけてヨーロッパで盛んに作られたが、現存するものはごくわずかで、現在ではほとんど顧みられなくなった建築形態である。展覧会は建築史の視点で、ヨーロッパで過去に存在したか、またはその計画が記録に残っているさまざまな居住橋を紹介しつつ、21世紀における居住橋実現の可能性を示すためにロンドンで実施された、テムズ川に居住橋を架けるという国際設計コンペの応募作品を紹介する構成だった。展示は、それぞれの時代の橋の設計図や景観図、当時の画家たちが橋を描いた絵画などが出品されていたが、白眉は非常に精巧に作られた建築模型である。いずれもかなり大型のもので、各展示室を結ぶように設置された、本物の水をたたえたプール(ご丁寧にもポンプによって実際に水が流れていた)に年代順に置かれ、何時間見ても飽きないという感じだった。それにしても、橋の上に住むという中世ヨーロッパの人々の発想の柔軟さには驚かされる。主には商業施設をそこに集中させるという、今で言えばショッピングモール的な用途で建てられたようだが、時を経るにつれ、商業施設だ、教会だ、軍事施設だといった本来の用途を超越して、建築家や時の施政者たちの夢と欲望むき出しの、新宿の都庁舎も真っ青な誇大妄想的な計画案があらわれていくさまはスリリングでさえあった。それらがほとんど現存していないとは何とも悔やまれる。もっとも、考えてみれば現代のわが国でも、たとえば東京には神田川をはじめ暗渠化された地下河川が縦横に走っているわけで、これはもう東京全体が居住橋みたいなものである、ということに気づいて苦笑してしまった。
 ところで、この展覧会はロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツが企画した国際巡回展で、世界各国で大きな反響を呼んだそうである。日本では北九州、大阪で開催され、郡山が最後の会場だったが、郡山では残念ながら大きな反響とはいかなかったようだ。建築の展覧会が日本で市民権を得るにはまだ時間が必要ということであろう。とはいえ、展覧会の面白さと入場者数が比例しないのは今回に限ったことではない。せっかくの機会に見そこなった人には、残念でしたと言うほかない。
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会場:郡山市立美術館 福島県郡山市安原町字大谷地130-2
会期:1999年7月17日(土)〜8月29日(日)
開館:9:30〜17:00 休館日=月曜日
入場料:一般940円/高校・大学生530円/高校生520円/小・中学生200円
問合せ先:024-956-2200

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report学芸員レポート[CCGA現代グラフィックアートセンター]

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版画の話展

 この夏は、春にCCGAで開催した福田美蘭展が大阪に巡回したこともあって、その準備のためと、来年計画している展覧会の打合せなどで関西方面に出張することが多かった。そのせいで、と言うのは口実に過ぎないが、9月から始まる企画展の準備が遅れに遅れ、お盆期間中も帰省はしたものの、カタログの校正でデザイナーのもとに日参したりして家族の不興をかった。とはいえ、最後の追い込みが功を奏したか、自分で言うのも何だが、会場もカタログも少しユニークな展覧会になったと思うので、この場を借りて紹介させていただきたい。
 展覧会は「版画の話展」と題して、館蔵品のアメリカ現代版画だけを使って、従来行なわれてきた版画入門の展覧会とは少し異なる視点から版画芸術の魅力に触れてもらおうという企画である。従来、版画入門と言えば技法解説か版画史の概説に相場が決まっていたと思う。実際、版画展を見に来る人たちのもっぱらの関心も、その作品がどのような技法で印刷されたかということである。もちろん、版画と技法は不可分の関係にあるわけだし、人は、何にせよ技術と名のつくものに多かれ少なかれ惹きつけられるものだから、版画技法ばかりがクローズアップされるのも無理はない。しかし、技法のことをいくら知ってもらったところで作品の理解につながるわけではなく、企画者としてはいつも歯がゆい思いをしていた。そこで今回は、いわゆる版画技法の話は一切せずに、「うつす」「かえる」「あつめる」「くりかえす」というキーワードを設定し、版を使うことによる版画ならではの美学的な概念から実際の作品をご覧いただくことで、技法や版画史ではない別の見方を提案しようと目論んだわけである。果たして来館者の反応はどうなることやら‥‥。自信があると言ったわりには、ここまで書いて急に不安になってきた。
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版画の話展

会場:CCGA現代グラフィックアートセンター 福島県須賀川市塩田宮田1
会期:1999年9月11日(土)〜12月19日(日)
開館:10:00〜17:00 休館日=月曜日、祝日の翌日
入場料:一般300円/学生200円/小学生以下、65才以上、身体障害者は無料
問合せ先:0248-79-4811
E-mail: ccga@po.iijnet.or.jp

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