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福岡  川浪千鶴
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ミュージアム・シティ・プロジェクト1999
exhibition「ヴォッヘンクラウズール:アートによる提案と実践」

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プロジェクト事務局とカフェのある旧御供所小学校

プロジェクト事務局とカフェのある旧御供所小学校
プロジェクト事務局とカフェのある
旧御供所小学校

 このコラムを書いている11月末現在、ヴォッヘンクラウズールの福岡プロジェクトは、まだリサーチの段階で提案と実践にいたっていない。(つまり、まだ何だかよくわからない)ということで、今回は概略と経緯を紹介しつつ、福岡プロジェクトへの関心をふくらませてみたい。
 まず、ヴォッヘンクラウズールとは何か。
 流動的なメンバー(これまでの活動に関わったメンバーは約40名。毎回地元のアーティストたちと協同作業を行っている。今回は、ウィーンからの4名と藤浩志氏ら福岡のアーティスト3名、計7名がヴォッヘンクラウズールとして活動する。)で構成されているアートプロジェクト・グループで、1993年からウィーンを拠点にヨーロッパ各地で活動している。彼らのテーマは、ホームレス、高齢者、移民問題など、日常に存在するさまざまな社会問題であり、地域住民と話し合うなかから問題解決の糸口を探し、さらに行政や企業などにも働きかけ、コミュニケーションを重ねながら具体的な問題解決を提案し、実践していく。こうした一連の活動そのものをアートと称し、目にみえるいわゆる作品の制作を目的としない。
 社会の現実と深く関わるアートの在り方や傾向は近年各地で見うけるが、社会運動、市民ボランティア活動と見まがうような彼らのプロジェクトは、その中でも最も先鋭的といえる。今年ベネチア・ビエンナーレで、マケドニアにコソボ難民のための語学学校を設立するプロジェクトを行い、メジャーデビューを果たしたが、それまでに行った9つのプロジェクトについては、意外なほど(?)知られていないようだ(過去のプロジェクトの詳細については、下記のHPを参照のこと)。
 今回彼らを招へいしたのは、街中でアートを楽しむ美術展「ミュージアム・シティ・福岡(天神)」を主催しているミュージアム・シティ・プロジェクト。今回の、日本はもちろんヨーロッパ外初のプロジェクトは、98年にベルリンで彼らの失業者問題を扱ったプロジェクトに出合ったミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長の宮本初音氏の企画によるもので、「地域社会とアートとの新しいコミュニケーション・システム」を生み出すことを共通の目標としている。

クリスマスツリー
フリーカフェ“タンネ”に飾られている大きなクリスマスツリー

アート・ピクニック'99会場風景

アート・ピクニック'99会場風景
アート・ピクニック'99会場風景
ヴォッヘンクラウズールの
メンバーも子どもたちと
クッキー作りや宝探しをした

 来日前に打ち合わされた大雑把なテーマは、こどもと教育をめぐる問題(これは世界共通の問題として)とのことだが、あくまでも来日後に行う地域住民とのディスカッションから問題点を抽出し、改めて協議を行う予定という。彼らの活動には、「リサーチ、コミュニケーション、問題解決に向けてのコンセプトづくり(提案)、実現」の4つの段階がある。現在は小、中、高等学校やフリースクールを訪ねたり、教育・社会学等の専門家や関係者と話し合いの最中で、いじめや登校拒否といった誰もが思い浮かべる教育問題などから、大上段ではない彼らなりの視点でテーマを見つけだすことが、まず大きな課題である。
 また、外でのリサーチ以外に、旧御供所小学校の木造校舎内にフリーカフェ“タンネ”(彼らがウィーンから運んできた飾り物で彩られた本物のもみの木のツリーなど、オーストリアのクリスマス風にアレンジされている)を設け、常に(月曜定休)メンバーの何名かが居て、コーヒーを飲みながらプロジェクトをめぐる話し合いが誰でも自由に行える場も運営している。
 さて、すべてにわたってコミュニケーションを重視する彼らにとって、日本でのプロジェクトはまず言葉の壁が大きいのでは、と懸念される。カフェに地元をはじめとする多くの人たちが気楽に立ち寄り、議論し慣れない日本人が教育問題について語りだすには、また日本の教育問題から彼らなりのテーマを見つけだすには、かなり時間と人手がいりそうだ。2ヶ月という会期はいかんせん短かすぎる。
 2ヶ月後に、達成できたことと課題として残ったこと(当然抱え込まざるをえないもの)、そしてその後も地域が引き続けて行う実践(アフターケア)、これらすべてをもってでなくては彼らのプロジェクトの意義はわからないだろうと推測されるし、むしろ「その後」こそがプロジェクトの重要な部分だという気がする(そう考えると、大変なことが始まってしまった)。
 また、彼らにどこでも、いつでも、誰からも、何回でも出される「これがアートなのか」という質問について。この問いを巡っては、彼らのコンセプトやこれまでのレポートを読んだだけでは、やはりまだ腑に落ちない。キリスト教思想を背景としたボランティア精神やモラルに則ったように見える活動内容や、既存の市民運動との差異(「Art and Concrete Intervention(アートと具体的な介入)」と彼らは表題に掲げているが、文字通りお節介の面はないのか)などなど、やはり彼らのプロジェクトの今後、その後を実見しながら、繰り返し問い続けてみなくてはならないだろう。そう考えると、これはアートと社会の関係について考え続けさせるプロジェクトでもあると思うのだが、いかがだろうか。

 追記:ヴォッヘンクラウズールは、最近の協議の結果、学校の授業支援を行うエイジェントの設立を、今回のプロジェクトのテーマに絞りこみつつある。
 とりあえずエイジェントと呼ばれている組織というか機構は、子どもたちが自分で考え、学び、行動することを目標に、今後学校や教師(「総合的学習の時間」にも関連させて)、学外の専門家と連動して、「行動することで学習する」ための新しい授業を提案し、実践していくらしい。12月14日現在、関係者のヒヤリングやイメージづくり、企画書作成、体制づくりに取りかかり始めたところ。エイジェントの組織づくり、学習テーマ(例:新聞プロジェクト)の設定・企画、さまざまな職種の協力エキスパートの登録なども、同時に模索中とのこと。
 こうした最新動向については、“WochenKlausur in Fukuoka”でぜひご確認を。

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ヴォッヘンクラウズール:アートによる提案と実践
会場:旧御供所小学校 (福岡市博多区御供所8-1)
会期:1999年11月15日〜2000年1月17日
参加アーティスト:パスカル・ジーンネー、ヴォルフガング・ツィングル、
         ウルリーケ・コーネン=ツルツァー、
         カール・セイリンガー(以上ウィーン)、
         藤浩志、桐野愛子、桐野祐子(以上福岡)
問い合わせ先:Tel. 092-283-4877
       ミュージアム・シティ・プロジェクト 御供所スタジオ
今回のプロジェクトのネット掲示板“WochenKlausur in Fukuoka”:
http://bbs.idobata.net/cgi/mkres2.cgi?hazne
ヴォッヘンクラウズールHP:http://wochenklausur.t0.or.at

今後のスケジュール
・フリーカフェ“タンネ”
 11月23日〜2000年1月16日 午後2時〜7時(月曜定休)御供所小学校内教室
・ヴォッヘンクラウズール記録資料展
 12月1日〜12日 イムズ1階エスカレーターサイド
 12月15日〜2000年1月17日 旧御供所小学校
・交流会−ヴォッヘンクラウズールと話をしよう!
 12月5日 イムズホール ロビー
・公開討論会「ヴオッヘンクラウズールが提案するアートと社会の新しい関係(仮称)」
 2000年1月9日 あいれふ講堂
・公開交流イベント クロージングセッション
 2000年1月16日 旧御供所小学校


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タン・ダウ パフォーマンス「I think about it」パートII
exhibition福岡アジア美術館 招へい作家プロジェクト

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タン・ダウ パフォーマンス
サンタクロースに扮したダウ氏は観客に欲しいものを聞いて歩き、それぞれの願いを担いだ紙の袋に墨で描いていく。

タン・ダウ パフォーマンス
自分の心(シャツ)と美術活動や経歴などを象徴する足(ズボン)、担いだ板の端に吊り下げたそれぞれは正反対の方向に進もうと主張し、ダウ氏は前後に振り回される。

 福岡アジア美術館は、福岡アジアトリエンナーレなどの展覧会活動以外に、交流プログラムとして毎年アジアの作家や研究者を長期間招へいするアーティスト・イン・レジデンス事業を、この秋から始動させた。初年度に招へいされた作家のひとりで、今年第10回福岡アジア文化賞を受賞した、東南アジア現代美術の父ともいわれるシンガポールのタン・ダウ氏は、9月から来年3月までの予定で現在福岡市に滞在中である。
 「I think about it」と題されたパフォーマンスは、約3ヶ月の滞日期間を経たダウ氏がいま感じていること、考えたことを表現したもので、3回シリーズで行われている(パートIIIは12月4日開催)。
 ダウ氏のパフォーマンスの特徴は、氏がまず参加者に直接的なアプローチをし、次いで自然に彼の世界に引き込まれた参加者自身が、氏の投げかけた問題について考え始めるという点にある。
 問題を突き詰める真剣さと場をなごませるユーモアの共存、ときに皮肉っぽく、ときに激しく感情をあらわし見る者をどきっとさせるが、会場には同時に笑いも絶えなかった。なごやかな緊張感、そして鑑賞者ひとりひとりが自分自身の「it」について考え始めた余韻も含めて、すばらしい一夜だった。
 パフォーマンスの成功は、ダウ氏自身の人間的魅力によるところが大きい。もはや自分のアイデンティティにはこだわりたくない、と語るダウ氏は、近年の「ジャントゥン・ピサン:木のこころ 人のこころ」(「バナナの葉の下ではすべての人は平等である」という合い言葉のもと、現在行っているプロジェクト)のように、より普遍的なテーマを自らに課し、さまざまな人たちとコミュニケーションを重ねている。6ヶ月もの長期にわたってダウ氏と交流、協同できる幸せ!、福岡アジア美術館に大感謝です。
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会場:福岡アジア美術館
日時:1999年11月20日
問い合わせ先:Tel. 092-263-1103 福岡アジア美術館 学芸課交流係

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report学芸員レポート[福岡県立美術館]

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ヴォッヘンクラウズールも参加した、子どもたちのためにワークショップ「アート・ピクニック'99」(11月28日)終了後、ヴォッヘンクラウズールの今回のプロジェクトのネット掲示板“WochenKlausur in Fukuoka”上で、ワークショップをめぐる意見や批判が展開された。
 交流ばやりの昨今、ワークショップは頻繁に行われているが、悪くいえばやりっぱなしの場合が多く、終了後の反省や問題提起を耳にすることはあまりないように思う。今回のやりとりは、ワークショップの参加作家と参加者の保護者という実体験者からの建設的な批判で、ワークショップばやりの美術館事情に問題(作家まかせで終わっていないかなど)を置き換えても有効で、興味深く身につまされる点が多かった。
 単なるサービスではなく、地域の人や子どもと一緒だからつくりあげられる、再考できるアートの在り方を求めるために、ワークショップをめぐるマネジメントの問題はもっと深めなくてはならない。

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