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東京  荒木夏実
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exhibition熊川哲也 Kバレエカンパニー ジャパンツアー'99ウィンター 

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熊川哲也 K バレエカンパニー ジャパンツアー'99ウィンター
 東洋人として初めて英国ロイヤル・バレエ団に入団し、17歳で団最年少のソリスト、19歳で団史上最年少のファースト・ソリストに昇格、93年には英国ロイヤル・バレエのプリンシパルという世界的にもトップの地位を得た熊川哲也。しかし98年にこの安定した地位を捨てるかのように退団した彼は、翌年英国ロイヤル・バレエの仲間を率いてKバレエカンパニーという男だけのユニークなグループを作ったのである。
 そんなバレエの革命児熊川哲也の試みに期待は膨らんだのだが、正直言って欲求不満の残るステージであった。ユーモアを取り入れようとしながらもピリッとした味のない中途半端な演目、バレエの「通」にしかわからないであろう渋い作品と続き、ジャズダンスを取り入れた今回の目玉である「バロンズ・カフェ」は、小松亮太率いるバンドによるピアソラの生演奏という豪華な設定にもかかわらず、ちゃちな「ウエスト・サイド・ストーリー」を思わせる今ひとつのできであった。もちろん、私はバレエやダンスに全く無知なので勝手なことを言っているのであるが、熊川の目的でもあるバレエをより広く解釈し、あらゆる人に親しんでもらうという理念から言えば、エンターテインメントとしてもっと質の高いものを見せてほしい。
 しかし、欲求不満の最大の要因(おそらく多くの人が感じていただろう)は、熊川自身の登場が予想外に少ないという点である。逆説的に言うなら、彼の魅力が強すぎるのである。仲間のイギリス人ダンサーたちはロイヤル・バレエを代表するそうそうたるメンバーばかりだというのだが、熊川のピーターパンのような人間離れした軽やかさとスピード感の前では、どうしても見劣りしてしまうのである。これはフェアな見方ではないのかもしれない。しかし彼らの重量感がもたついた空気を作ってしまう。最もヨーロッパ的な伝統芸術であるバレエのステージで日本人が圧倒的に美しく見え、白人が見劣りするという現象に驚いてしまった。本来東洋人であることはハンディキャップであったはずなのに。熊川が恐るべきダンサーであることは間違いない。
 熊川の挑戦はバレエの革命であろう。今後の発展によってよりプロフェッショナルな仕事を見せてくれることを期待する。
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会場:神奈川県民ホール
公演日:1999年11月13日(土)

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exhibition猫のホテル公演「ゲバ」

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猫のホテル公演「ゲバ」
 千葉雅子主宰のユニークな劇団「猫のホテル」の新作公演は実に刺激的な内容であった。個性派(でない人はこの劇団にはいないが)役者市川しんぺー演ずるもじゃもじゃ頭に地味なグレーのジャンパー、取材用肩掛けかばんという出で立ちの男の名がタチバナタカシというところからしてカゲキな予感。(前回の芝居ではいきなり北島三郎が出てきたっけ。)科学の分野へ純粋な情熱を傾けるタチバナは、かつて彼を一躍有名にした田中角栄に関する取材記事ばかりが今なお評価されることにジレンマを感じている。そしてタチバナを引きずり降ろそうとする昔の仲間たち。大学教授たちのドロドロした出世争いや、研究室(東大、筑波大学とまたまた実名)での教授と弟子の微妙な関係などの描写があきれるほどリアルでおかしい。ナンセンスな笑いとデフォルメのパワーをほとばしらせながらも、同時に背筋がぞっとするような不気味さが漂う。
 それにしても、マニアックな状況設定の裏にはかなり綿密な調査があることが想像できる。なぜそこまで……と思わせる奇妙なこだわりと凝り性はこの劇団の魅力だ。偏った知性とエネルギーが次回はどんな形の結晶を見せるのか。どうも気になってしまう劇団である。
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「ゲバ」
会場:内幸町ホール
会期:1999年11月24日(水)〜11月28日(日)

次回公演「スナック!!」
こまばアゴラ劇場 2000年1月2日(日)〜4日(火)
問い合わせ:Tel. 03-3322-5277


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report学芸員レポート[三鷹市芸術文化センター]

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ドイツの20世紀美術展会場
ドイツの20世紀美術展会場 アルテ・ミュージアム

イタリアのお菓子屋さん
イタリアのお菓子屋さんは見ているだけで楽しい

 先日仕事と休暇を兼ねてベルリンとヴェネツィアを訪れた。
 ベルリンでは画廊の集まるミッテ地区に滞在し、打ち合わせをしたり展覧会を見て廻った。以前NTT ICCで発表したヨーク・デル・クノッフェルに偶然道で会って驚いたが、多くの美術関係者がこの地区に住んでいる。銀座にアーティストが住んでいるようなものだ。コンパクトに情報がぎゅっと凝縮されたこの環境はベルリンの強みだろう。
 今ベルリンでは4つの美術館を会場に、ドイツにおける今世紀の美術を総括する展覧会が行われている。デザインや報道も絡めて美術の歩みをたどるという壮大なコンセプトによるこの企画は、あまりにも範囲が広くて少々散漫な印象も受けたが、意欲的な試みだと思う。ナチス・ドイツのプロパガンダ・フィルムの前衛的美しさは特にインパクトがあった。またドイツにおける日本年ということで、ダムタイプのパフォーマンスや、中山ダイスケ、須田悦弘、小金沢健人、島野つねおなどの展覧会が行われていた。印象深かったのは国際文化会館の古い建築を使って大々的に行われた宮本隆司の写真展。吹き抜けの上から吊された阪神大震災の町を写した巨大なプリントや、ベルリンの廃墟や地下を撮った写真など迫力のあるインスタレーションであった。ちょうどフンボルト大学で写真のシンポジウムも開かれていたが、ジャパニーズ・フォトグラフィーへの興味と憧れはかなり強い様子。宮本展でも「うっとり」した表情で作品に見入る若者が多く見られた。しかし、オリエンタリズムではなく日本の現代美術への実質的な評価が高まっていることは、美術関係者との話を通して強く感じられた。特にベルリンのような新しい町は、伝統の呪縛からも偏見からも自由なのだろう。若々しい活気のある雰囲気はとても気持ちよかった。
 ベルリンからミラノ行きの飛行機に乗ると、ガラリとムードが変わるので驚く。旅行者の服装が全然違う。イタリア人(特にミラノの人)は旅行中でもびしっと決めているのだ。男性はしゃれたスーツに革靴、女性はヒールの高い靴にシルクのスカーフ、大きなイヤリングを身につけ、おばあさんでも鮮やかな赤い口紅をきゅっと引いている。機内に香水の匂いが漂う。そしてよくしゃべるしゃべる……。
 以前三鷹で展覧会とワークショップを行ったミラノ在住のアイルランド人アーティスト、リチャード・ゴーマンと再会してミラノの夜を楽しんだ後、翌日ヴェネツィアのビエンナーレ会場へ向かった。ナショナル・パビリオンを見ていくと国によるプレゼンテーションの違いとともに「美術」の解釈の違いを感じさせられる。宮島達男の「柿の木プロジェクト」はどうも納得がいかない。平和的な絵を想定しているのかもしれないが、原爆は戦争を終わらせるための有効な手段だったという解釈が普通に行われている世界の舞台では、中途半端で安易な平和思想は旧連合国にけんかを売っているようなものにも見えかねない。どれだけの覚悟があってのことなのだろうか。それにしても、PCから解放された同時代性の高い面白い日本人アーティストは大勢いるのに、代表となるとなぜこうなるのか。残念。またアペルト部門に中国人作家が多いことは繰り返し指摘されていたが、キッチュとグロはもういい……と感じてしまった。もっとアートの話をしようよ、と思う。スカンジナビア館のアイヤ=リーサ・アティラのシュールな映画が一番印象に残った。
 ドイツで仕事、イタリアでのんびりというベストな体験をして、元気になる旅であった。

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