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北海道  吉崎元章
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exhibitionふわふわワンダーランド

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ふわふわワンダーランド 展示風景

ふわふわワンダーランド 展示風景
展示風景

 この展覧会はおもしろい。北海道では何度かテレビでも取り上げられ、巷でかなり話題になっている。“ふわふわ”というイメージをキーワードに12人の作家の作品をブースごとに展示している。タンポポの綿毛や羊毛、スポンジといった柔らかな素材による作品、そして雲などのイメージ、色彩や形による軽やかな表現に、“心地よさ”が広がっている。
 これは子どもから大人までが楽しめる展覧会である。子ども向けの教育普及に関心の高い学芸員が企画しただけに、しっかりとした展覧会に仕上がっている。子どもを対象とした場合、得てして子どもに媚びを売るような内容になってしまいがちである。「やってみよう」「よく考えてみよう」などといった言葉づかいが鼻につくなど、企画側の自己満足に終わっている浅い内容のものも少なくない。優れた子ども向けの絵本や番組は大人が見ても十分に楽しめるものであるように、子ども向けの展覧会も大人の鑑賞に堪えられるものでなければならないはずである。その点、この展覧会は、構成からしてまさに良質の絵本を見るような感じなのである。展覧会の案内役を務めるのが、一般公募で名前が決まったテディ・ベアの「エンジェル」である。会場各所にこのエンジェルの写真が貼られ、そのそばに添えられた解説パネルはエンジェルが旅をしながらいろいろな作品に出会っていくという設定で話が進められていくのである。
 作品のいくつかは、実際に作品に触って並べ替えたり、試着したり、潜り込むなど体験型であるが、多くは当然「お手をふれないでください」と表示つきである。しかし、思わず手を伸ばし、時には頬ずりしたくなるような材質感だけに、それは酷というものである。そのあたりは学芸員は充分心得ていて、同じ素材を別に用意して、思う存分触れるようにしてるとは心憎い。
 現代作家を扱ったこの種の展覧会では異例といえるほど入館者が多いという。僕が訪れたのは会期最初の日曜日であったが多くの家族連れで賑わっており、美術館では見たことがないほど子どもたちの表情が生き生きとしていたのが印象的であった。
 前回の「ふるさとニッポン」展といい、北海道立旭川美術館は、最近それぞれの学芸員の個性を反映させた好企画が続いている。
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ふわふわワンダーランド
会場:北海道立旭川美術館
   旭川市常磐公園内
会期:1999年11月3日(水)〜2000年1月30日(日)
開館:10:00〜17:00
休館日:毎週月曜日(1/10は開館)、12/23、12/28〜1/4、1/11
入場料:一般300円/高大生200円/小中生150円
問い合わせ先:Tel. 0166-25-2577
アーティスト:藤井葉子、熊井恭子、上遠野敏、杉田光江、金井ひろみ、
       ささだるい、百瀬寿、難波田龍起、岩橋英遠、田村佳津子、
       杉浦隆夫、早見賢二

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exhibition並河萬里写真展「ペルシアの碧き古都イスファハン」

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「ペルシアの碧き古都イスファハン」展示風景
展示風景

 NHKスペシャルで数回にわたり特集が組まれるなど、最近イスラム文化についての関心が高まっている。破綻が生じてきたキリスト教に基づいた社会の新たな展開を、神への絶対的な祈りを中心に据えた世界に求めはじめている証なのかも知れない。この展覧会に並ぶモスクの写真を見ていると、そうしたことが素直に感じられる。
 並河萬里は、世界各地の歴史的建造物や文化遺産を撮り続けている写真家である。文化人類学や考古学などの豊富な知識に裏打ちされたその活動は、ユネスコの主席写真家を務めるなど、世界的に高く評価されている。なかでもシルクロードを追ったシリーズは写真集や写真展などで広く知られ、その要衝として古くから栄えたイスファハンの撮影にも、40年以上にわたり取り組んでいる。かつて「世界の半分」とまで詠われるほど栄華を極めたこの街は、現在、世界文化遺産にも指定され、多くの観光客を集めている。細かな彩釉タイルによる文様で覆い尽くされた神秘的なイスラム寺院や宮殿、そして人々の暮らしなど、並河萬里がこれまで写真に収めた数は数万点におよび、今回の展覧会では、そのなかから選りすぐった約100点を大型の写真パネルで紹介している。ホテルではなくテントで寝泊まりし、地元の人と同じように生活しながら、その土地の文化や風土を肌で感じるまでシャッターを切らないという彼の写真からは、イスラム文化の深い精神性を感じることができる。真実の姿を把握するまで撮影しないという彼のこうした姿勢は、若いときにスペインの画家ジョアン・ミロの取材のために半年間生活をともにしながら、その間わずか3回しかシャッターを切れなかったという逸話が如実に物語っている。
 今回約100点の作品が展示されているが、これまで数十年間、そこにしか頼まないと言う現像所の職人技ともいえるプリントの仕上がりは絶妙である。それぞれ少なくても3回は焼き直したという作品は、暗闇と光が織りなす幻想的な世界を紡ぎ出す。闇は黒ではなく、視角の限界に挑むように暗い中にどこまでも文様を写し出している。人間や動物など偶像崇拝を戒律で禁じているイスラム教の寺院は、必然的に幾何学的な文様で装飾されている。巨大な建造物の壁全面を、小さなタイルで唐草文様、幾何学文様、アラビア文字で覆い尽くすという気が遠くなるような作業は、職人の神への祈りなくしては到底ありえないものであろう。
 薄暗いなかに写真が浮かび上がる幻想的な会場には、彼が現地で収集した絨毯や衣装、工芸品が彩りを添えている。さらに、彼は近年、出雲や奈良など国内にも目を向けており、1996年から北海道の洞爺村を撮影した10点の作品も、ロビーに特別展示されている。
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会場:芸術の森美術館
   札幌市南区芸術の森2丁目75
会期:1999年10月16日(土)〜2000年1月16日(日)
開館:9:45〜17:00
休館日:月曜日、12/29〜1/16
入場料:一般1000円/高大生500円/小中生200円
問い合わせ先:Tel. 011-591-0090
URL:http://www.artpark.or.jp

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report学芸員レポート[札幌芸術の森美術館]

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「ペルシアの碧き古都イスファハン」展
 例年より遅いと言いながら札幌はもうすっかり雪景色です。僕が勤める札幌芸術の森には、起伏に富んだ緑豊かな7.5ヘクタールの敷地に国内外の現代彫刻74点を展示している野外美術館があります。ここは毎年11月4日から4月28日まで冬ごもりに入ります。何せ最も深い時期には約1.5メートルの積雪があるものですから。11月はこの冬に備えての冬囲いの作業に追われます。水は凍ると膨張する性質を持っているため、狭い隙間やひび割れがある作品や、大理石や安山岩など水がしみ込みやすい石をビニールシートで覆うのです。また、積雪による荷重に耐えられそうもない作品などにも支えを設けます。池に浮かぶ作品も当然引き上げです。
 冬はまた作品の見え方ががらっと変わる時期でもあります。他の季節には緑や紅葉が作品の周囲を彩りますが、冬は真っ白ななかに木の幹が黒いラインを描くモノトーンの世界です。積雪によっていままでとは違う高さの視点から作品を見ることもできますし、綿帽子もおもしろい造形を加えてくれます。
 野外美術館はある程度雪が積もる1月中旬から3月中旬にかけて無料で開放しています。しかし、作品を傷つける恐れがあるためほとんど除雪はしていません。その代わりといっては何ですがカンジキを貸し出して見てもらっているのです。これはなかなかハードですが、雪国ならではの鑑賞方法を、ぜひ一度試してみてください。

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