Sep. 10, 1996 (b) Nov. 5, 1996 (b)

Column Index - Nov. 5, 1996


a)【《三人の巨匠たち》展】……………………● 椹木野衣

b)【フィルム・ノワールの光と闇
 ―映画キャメラマン ジョン・アルトンについて】
 ……………………●森田祐三

c)【反「逃走論」のススメ─スローであることの強度】
 ……………………●熊倉敬聡


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《三人の巨匠たち》展

会場:
山種美術館
会期:
前期1996年9月7日〜29日
後期1996年10月1日〜27日
問い合わせ:
山種美術館
Tel.03-3669-7643

山種美術館開館30周年記念シンポジウム 「日本に新古典主義絵画はあったか?」

1996年10月5日開催

《三人の巨匠たち》展

●椹木野衣

 

日本の「新古典主義」絵画を考える

先ごろ、山種美術館開館30周年記念シンポジウムとして、「日本に新古典主義絵画はあったか?」と題する催しが開かれた。   これは、同館で開催されている《三人の巨匠たち―御舟・古径・土牛》の関連企画として組まれたもので、おおむね、次のような問題設定を打ち出している。
  大正末から昭和前期に制作されるようになった、日本や中国の古典美術を強く意識した一連の日本画(小林古径、安田靭彦、速水御舟、前田青邨ら日本美術院の作家、および松岡映丘一門ら新興大和絵)は、現在、「新古典主義」と呼ばれることが多いが、これは、18世紀、19世紀に現われた西洋の新古典主義と同等に評価・規定してよいものか否か―この設定にしたがって、草薙奈津子、鈴木杜幾子、玉蟲敏子、大熊敏之、林功の各氏が、各自の専門分野の視点から簡単な発表を行ない、これにもとづいて討議が進行した。
  結論から言うと、日本における一連の「新古典主義」の日本画は、西洋の新古典主義絵画の亜流としての擬古典派というべきもので、西洋の新古典主義を規定していた古典回帰運動としてのギリシャ・ローマに該当する理念としての「古典」回帰性を見出せないという論調が強く、また、そもそも西洋美術史の成果に該当するものが、必ずしも日本画のなかに見当たらなければならないというものでもないだろうという意見も見受けられた。

日本の「古典」と西洋の「古典」

全体の論調はおおむね納得のいくものであり、ことさらに異論を述べる余地もないが、ひとことだけ付け加えておきたい。
  「古典」がことさらに強調されるとき、その背後には必ず政治的・社会的動機が見え隠れするわけだが、西洋の新古典主義が、貴族主義の近過去を否定するために、新興階級の正統性が遠くギリシャ・ローマに求められたという経緯は、発表にもあったとおり、非常に重要な視点であり、しかもその際、交通機関の発達や写真の発明といったメディアの普及が「古代」の発見に一役買ったことは忘れられない。
  つまり、西洋がつねに帰るべき「古典」としてのギリシャ・ローマを持つという言説それ自体が、変化の渦中にあった当時の環境から創出されたという色が濃いのである。そもそも、市民階級が古代を希求し、古典を召喚するということ自体がいかがわしいともいえるわけで、そのいかがわしさから「古典」を考えるならば、日本の新古典主義についても、新しい視角を得ることができるかもしれない。
  日本において「古典」を考えるときにけっして落とせないのは、本居宣長の存在であり、彼によって日本の「古典」は、単なる文献としてではなく、理念として創出されたのではないだろうか。また、実際この創出は、幕府の御用学問であった儒学を排すると同時に、尊皇攘夷へと流れ至る動きに繋がっており、明治維新と市民革命との単純な比較はできないものの、日本に「いかがわしき」理念としての「古典」回帰運動があったならば、そこにおいて西洋との接点を見出すこともできるのではないだろうか。たとえば、新興大和絵に先立って江戸末期、復古大和絵の運動があったが、この復古運動と古学、国学がどのように絡んでいたかなども、論議が欲しかった。

[さわらぎ のい/美術評論家]

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b)【フィルム・ノワールの光と闇
 ―映画キャメラマン ジョン・アルトンについて】
 ……………………●森田祐三

c)【反「逃走論」のススメ─スローであることの強度】
 ……………………●熊倉敬聡



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