Apr. 15, 1997 Apr. 29, 1997

Art Watch Index - Apr. 22, 1997


【イギリス現代美術の連続性を考える
 −ヘイワード・ギャラリー《マテリアル・カルチャー展》】
 ………………●毛利嘉孝


Art Watch Back Number Index



《マテリアル・カルチャー:
1980年代と90年代のイギリス美術におけるオブジェ》

会場:
ヘイワード・ギャラリー
Hayward Gallery, South Bank SE1
会期:
1997年4月3日
 〜5月18日
(月曜日休館)
問い合わせ:
ヘイワード・ギャラリー
Tel.0171-960-4242
Alison Wilding

アリソン・ワイルディング
Echo
1995年

Cornelia Parker

コーネリア・パーカー
Embryo Firearms
1995年
(C) The artists

Gary Perkins

Gary Perkins

ゲイリー・パーキンス
-15℃ at 60 m.p.h.
1996年

Cerith Wyn Evan

セリス・ウィン・エヴァン
EXIT(鏡文字)
1996年 Courtesy Jay Jopling, London
(C) The artists

Damien Hirst

デミアン・ハースト
The Lovers: (Committed), detail
1991年

Grenville Davey

グレンヴィル・デイヴィー
(gold) Table
1991年

Sarah Lucas

サラ・ルーカス
Is Suicide Genetic?
1996年
(C) The artists

写真:ヘイワード・ギャラリー






White Cube: Damien Hirst
http://www.whitecube.
com/artists/dh.html

Hot Wired: POP | Gallery | Work by Damien Hirst
http://www.hotwired.
net/gallery/96/
27/index3a.html

Damien Hirst Biography
http://www.illumin.
co.uk/britishart/
artists/dh/dh_biog.html

Damien Hirst
http://www.illumin.
co.uk/turner/hurst.html

Rachel Whiteread - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
e/4zzurgqe/menu.htm

Portikus Frankfurt:Sarah Lucas
http://www.germangalleries.
com/Portikus/LucasE.html

White Cube: Gavin Turk
http://www.whitecube.
com/artists/gt.html

Douglas Gordon Biography
http://www.illumin.
co.uk/britishart/artists/
dg/dg_biog.html

White Cube: Mona Hatoum
http://www.whitecube.
com/artists/mh.html

Mona Hatoum
http://www.illumin.co.
uk/
turner/mona.html

MONA HATOUM
http://tesla.csuhayward.
edu/cappstreet/installation/
mona_hatoum.html

Mona Hatoum - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
3/6ge420n3/menu.htm

Peter Greenaway
http://www.zen.co.uk/
home/page/paul.m/
greenaway.html

Peter Greenaway - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
k/3gsaj32k/menu.htm

White Cube: Antony Gormley
http://www.whitecube.
com/artists/ag.html

Howard Hodgkin - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
g/3gsaiv2g/menu.htm

HOWARD HODGIKIN, Moonlight
http://www.artcity.com/
kempner/Big_Moonlight.html

リチャード・ハミルトン
Chase Today - Guggenheim Silver/Gold/Bronze, 1982
http://www.shellmc.com/
noframes/today/art/
AW048.html

Ian Hamilton Finlay
http://gort.ucsd.edu/
sj/stuart/finlay/

Houston, MFA Cullen Sculpture Garden: Tony Cragg
http://mfah.org/
garden/artists/cragg.html

Tony Cragg - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
f/224bcvpf/menu.htm

Richard Deacon - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
7/bfj4yp77/menu.htm

Anish Kapoor - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/artist/
t/2kkq2ezt/menu.htm

Mattress Factory Past Works: Alison Wilding
http://www.mattress.org/
Catalogue/wilding.html

WebMuseum: Turner, Joseph Mallord William
http://SunSITE.sut.ac.jp/
wm/paint/auth/turner/

WebMuseum: Bacon, Francis
http://SunSITE.sut.ac.jp/
wm/paint/auth/bacon/

UD Art : Francis Bacon
http://desires2.desires.com/
2.4/Art/Bacon/Docs/
english.html

ギルバート&ジョージ
Gallery : Selected art from The Hess Collection
http://www.hesscollection.
com/gallery01.html

ギルバート&ジョージ
Cold
http://cac.psu.edu/~mtd120/
palmer/otherworks/
gilbert.cold.html

Gilbert and George - Reference Page
http://www.artincontext.
com/listings/pages/
artist/4/5aomcap4/menu.htm

White Cube: Cerith Wyn Evans
http://www.whitecube.
com/artists/cwe.html

イギリス現代美術の連続性を考える
−ヘイワード・ギャラリー
《マテリアル・カルチャー展》

●毛利嘉孝



今イギリス美術はおもしろい?

「今イギリスの美術がおもしろい」と言われている。こうした言説が、イギリス以外の国でどの程度説得力をもって受け入れられているのか、イギリスに住む評者は判断することができない。しかし、イギリス国内においてはこの認識は定着しているのは確実のようにみえる。
  ヘイワード・ギャラリーで行われている展覧会『Material Culture』は、80年代と90年代のイギリス国内の作家のオブジェばかりを70点も集めた展覧会。ここでは立体作品に限られているが、取りあげられているデミアン・ハースト、レイチェル・ホワイトリード、サラ・ルーカスギャヴィン・ターク、スティーヴン・ピピン、ダグラス・ゴードン、サイモン・パターソン、モナ・ハトゥーム、ジュリアン・オピーといった作家の名前を並べるだけでも、80年代後半からイギリスの美術界を牽引してきた世代の名前が並んでおり、「今おもしろいイギリス美術」が一望できるようになっている。
  ヘイワード・ギャラリーはこのところ意欲的にイギリス美術の組織化にかかわっており、昨年だけでもピーター・グリーナウェイのインスタレーションが衝撃を与えた《Spellbound》や最近のアート・カウンシルのコレクションを集めた《Ace》、あるいはアントニー・ゴームリーやハワード・ホジキンなどイギリス国内では既に評価の定まったアーティストの展覧会を開催し、こうしたイギリス現代美術の評価の定着に大きな影響を与えてきた。80年代後半から積極的にイギリス人アーティストのコレクションを行いはじめたサーチ・ギャラリーや、あえてコレクションを持たずに個性の強い企画展を展開しているホワイトチャペル・ギャラリーとともに「今おもしろいイギリス美術」の重要な拠点といえる。イギリス国内でさえこれまで決して積極的に評価されてこなかったイギリス現代美術がにわかに脚光を浴びたのは、こうした国内の中規模の美術館が80年代以降意識的にイギリス美術を取りあげてきた功績によるところは大きいだろう。特にデミアン・ハーストの国際的な成功を機に、こうした世代のアーティストの動向はこのところメディアにも大きく取りあげられてきた。

イギリス現代美術の連続性

しかし、イギリス美術が80年代の後半から突然おもしろくなったわけではない。本展は、このことをオブジェという形式にこだわることで示そうとしているようにみえる。展覧会は上述の比較的若い世代だけではなく同時に、すでに巨匠として認識されているリチャード・ハミルトン、ジョン・レイサム、イアン・ハミルトン・フィンレイといった世代や、ハースト以降の世代に先行するトニー・クラッグリチャード・ディーコン、アニッシュ・カプールといった世代の作品も含んでいる。そして、驚かされるのはにわかに「おもしろい」作家たちとして脚光を浴びている若い世代の作品が、その前の世代と大きな共通点を有していることである。
  たとえば、展覧会のキュレーターであるマイケル・アーチャーとグレッグ・ヒルティは、アリソン・ワイルディングギャヴィン・タークの全くちがった個性の作家の作品が、その磨かれた金属の質感においてはっきりとした共通点を示していることをカタログで示しているが、この展覧会は実際そうした発見に溢れている。しばしばスキャンダラスに語られるデミアン・ハーストの牛の内臓のホルマリン漬けの作品も、この展覧会の文脈では奇妙なまでに落ちついてみえる。作品群は相互に関連しあい、はっきりとした傾向を示しているようにすら感じられる。
  こうした傾向を「イギリスらしさ」として括ることができるかもしれない。磨かれた金属やプラスティックといった人工的な素材の多用。一種のレディメイドの作品群。死に対する奇妙なシニシズム。作品はどれも冷たく、決定的に暖かみにかけている。一般にポップ・アートは、イギリスではじまりアメリカに輸出されたとされているが、イギリスの美術にはアメリカの美術にしばしばみられる「パロディ」がほとんどみられず、すべてが独特の「アイロニー」に満ちている。作品はどれも日用品のようにもみえ、美術館でなければ美術作品だと気がつかれないようなものも少なくない。その徹底ぶりは、同時代のアメリカの作家と比較しても異様な感じさえ受ける(ハーストのホルマリン漬けが、理科室にあればだれが美術作品だと思うだろうか? そして、この作品が目立たない展覧会というものはいったい何を意味しているのだろうか?)

日常生活の「物」と美術の「作品」との関係

評者はかねてから、なぜイギリスでは美術が発達してこなかったのか、気になっていた。よく考えてみれば、ターナーとフランシス・ベーコンを例外として歴史的にイギリスが世界の美術史で重要な役割を果たしたことはほとんどない。現代美術も80年代後半に突如盛り上がるまでは、ギルバート&ジョージやリチャード・ハミルトンを数少ない例外として、よっぽどの変わり者でなければイギリスの美術をフォローしていなかったのではないだろうか? そして、まさにこの事実がこの展覧会で感じられたある一定の傾向と関係していたのではないか、という気がするのだ。イギリスの美術は、イギリスの美術があるがゆえに「美術」になりえなかったのではないか? これは、おそらく美術作品と日常生活の物との「距離」にかかわっている。
  結論はいささか唐突な仮説めくが、「今イギリス美術がおもしろい」といわれるのは、たぶんイギリス美術がおもしろくなったからではなく、世界的な美術シーンのある種の飽和の中で、美術における作品と日常生活の物との「距離」そのものが国際的なレベルで変化して、結果的にイギリスの美術が持っていたある傾向に似てきたからだ。これはイギリスがかつて世界の最先進国であり、最初に退廃した国という事実とも関係しているだろう。世界はイギリス的になりつつある。とすれば、最近取りあげられる若い世代のイギリスのアーティストだけではなく、これまで美術史の中でマイナーな位置を占めてきたイギリス美術史全体を再考する価値はあるかもしれない。その意味でも貴重な展覧会であり、みごたえがある。

[もうり よしたか/
カルチュラル・スタディーズ]
mouri@dircon.co.uk

toBottom toTop



Art Watch Back Number Index

Apr. 15, 1997 Apr. 29, 1997


[home]/[Art Information]/[Column]


Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1997
Network Museum & Magazine Project / nmp@nt.cio.dnp.co.jp