Apr. 29, 1997 Jun. 3, 1997

Art Watch Index - May 6, 1997


【《中国現代美術展》
 ―ポスト天安門世代のラディカリズム】
 ………………●建畠 晢


Art Watch Back Number Index



《中国現代美術展》
会場:
ワタリウム美術館
会期:
1997年4月5日〜
 7月27日
問い合わせ:
ワタリウム美術館
Tel.03-3402-3001
Zhang Huan (performance on Apr. 6)

Zhang Huan (performance on Apr. 6)

ジャン・ホワン(張ホワン)
4月6日早朝、ワタリウム美術館前で行なわれたパフォーマンス

Wang Jin (performance on Apr. 4)

ワン・ジン(王晋)
4月4日に行なわれた物物交換のパフォーマンス

Wang Jin

ワン・ジン(王晋)
エクスポージャー東京、1997・4秒

Chan Yuk Keung

チェン・ユクキュン(陳 育強)
波間に浮き沈み 1997年

Gao Bo

ガオ・ボ(高波)
チベット 1996年

Zhan Wang

ジャン・ワン(展望)
誘惑 1994年

Wang Gong Xin

ワン・ゴンシン(王 功新)
公共の廊下 1997年

写真:ワタリウム美術館






WATARI-UM
http://www.cyber-bp.or.jp/
watarium/

ワタリウム美術館
http://www.tokyoweb.or.jp/
infomedia/museum/data/
watari/watarium.html

中国現代美術展
http://www.cyber-bp.or.jp/
watarium/chinaNOW/

天安門事件
Chinese Democracy in 1989
http://www.nmis.org/
gate/themes/
Nathan.html

天安門
The Gate of Heavenly Peace
http://www.nmis.org/
gate/

文化大革命
People's Republic of China: III
The Cultural Revolution Decade, 1966-76 http://www-chaos.umd.
edu/history/prc3.html

Plexus: Tian-Miao Lin
http://www.plexus.org/
lin.html

Plexus: Gong-Xin Wang
http://www.plexus.org/
wang.html

《中国現代美術展》
―ポスト天安門世代のラディカリズム

●建畠 晢



周知のように、80年代来、日本の美術館ではブームと言いうるほどアジア各国の現代美術展が頻繁に開かれてきたが、中国にはなかなか目が向けられることがなかった。相手が巨大過ぎて容易には手が出せないということでもあっただろうが、何よりも天安門事件後の抑圧的な状況が公的な紹介を困難にしてしまっていたのである。しかし経済の開放政策の進展に伴って、この数年、アングラ的に展開されていた“中国アヴァンギャルド”の活動の情報が国外にも伝わるようになり、現地での調査もある程度は可能になってきた。原宿のワタリウム美術館で現在開催中の中国現代美術展は、そうした機運の中でようやく実現した若い世代の動向を紹介する展覧会である。
  出品したのは北京から6名、香港から1名で、いずれも50年代末から60年代前半に生まれた、いわるポスト天安門世代に属する作家たちである。この世代には昨年、日本で回顧展が開かれたフアン・リジュン(方力鈞)のようなシニカル・リアリズムと呼ばれる虚無的な傾向の画家たちもいるが、また今回の展覧会のようにインスタレーションやパフォーマンスに取り組む作家も多く見られる。自己形成期に遭遇した文化大革命天安門事件のトラウマを秘めているのであろう、彼らには総じて現実の政治への深い断念があり、それゆえにまた内向的に重く表現を突きつめて行かざるをえなかった世代と言えるかもしれない。

時代への対峙

さて本展で特筆すべきなのは、作家の全員が作品の設営やシンポジウム、パフォーマンスのために来日したことである。とりわけジャン・ホワンのパフォーマンスが実現出来たのは大きな収穫であった。実は一昨年、私は北京で何度か彼に会い、自らの肉体を危険にさらす荒事のビデオを見せられていたが、その過激さからいって到底、国の外に出るのは不可能ではないかと思っていたのだ。4月6日の早朝に行なわれたパフォーマンスは、中国から持ち込んだ木製の大車輪をビルの屋上に乗せ、それと道路を挟んだワタリウムの窓との間にベルを吊り下げた無数の輸血用のゴムチューブを張り渡し、ジャン・ホワンが全裸の体を車輪にもたせかけてチューブを揺すり続けるというもの。現代という時代に荘厳な歴史を宿した身体によって対峙するかのような、いかにもヒロイックな光景である。
リン・テェアンミャオ
(林 天苗)
包む、解き放つ
1997年
Lin Tian Miao
  インスタレーションで注目されたものの一つは、女性作家のリン・テェアンミャオ(林 天苗)の作品で、何年もかかって糸ですっぽり巻き上げてしまった家庭の生活具を数多く床に並べて見せている。日常の拘束とオブジェとしての逸脱という両義性をはらんだ、フェミニズム的な、しかし同時に不思議なエレガンスを感じさせもするフェティッシュ群である。その他、狭い廊下の両壁にビデオ・モニターを埋め込んだワン・ゴンシン(王 功新)、オープニングで観客と物物交換のパフォーマンスを行なったワン・ジン(王晋)など、個々の鋭く緊張した方法と、おそらくは大陸的と称すべき悠然とした時間、空間の感覚とが共存する会場であった。小規模ながらこの国の現代美術の紹介の嚆矢となる好企画といえよう。

[たてはた あきら/美術批評]

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