現代絵画を体験するポルケ展
ヴェネツィア・ビエンナーレやカッセル・ドクメンタなどの華やかな国際展が話題を呼ぶ一方で、見応えのある展覧会がヨーロッパ各地で開催されている。ドイツではフランクフルト美術館の内藤礼展やウォルフスブルグ美術館のブルース・ナウマン展が人気を呼んでいるが、ボンの連邦美術館(クンストハレ)でのジグマー・ポルケ展とベルリンの20世紀美術展はこの夏の重要な展覧会のひとつに上げられる。
カトリーヌ・ダヴィッドのコンセプトによるドクメンタの参加を蹴ったジグマー・ポルケの「絵画の三形態」と題された展覧会はキュレイターのマーティン・ヘンチェルが〔ポルケ絵画の再統合〕を意図し、1962年から最近作まで30年以上のキャリアを見せるべく、220点以上の作品を展示。近年にはない大規模な絵画展となった。
膨大な量の作品もまったく苦にならずさまざまな作品スタイルをじっくり堪能することができる。資本主義リアリズム、すなわちポップアートへの反抗期時代の作品群、「デューラーの兎」(1968)や「不思議の国のアリス」(1971)などキャンバスに布地を合成したような一連の、最もポルケらしいキッチュな作品群、そして80年代以降のますます実験的な絵画傾向の作品群、例えば86年のビエンナーレで「絵画が必要というのではない。素材自体に起こる変化に関心がある」という考えのもとで、湿度や温度で変化する顔料をパヴィリオンの壁に塗った作品などに分類できる。常に反絵画を追求するポルケの作品は、個性を感じさせる筆の動きまでもたんなるフォルムでしかなく、画面に現れるモチーフも複数の目的とつながっているので、実際には複雑極まりないが、今展は神秘的なポルケ絵画のすべてを体験できる絶好の機会だ。 |
モダニズムの時代
現在建築ラッシュのベルリンにあるマーティン・グロピウス・ボウ美術館でクリストス・ジョアキミデスとロンドンのノーマン・ローゼンタールがオーガナイズした《モダニズムの時代》展が好評だ。今回ヴェネツィア・ビエンナーレのイタリア館で「過去、現在、未来」と題し、大々的に現代美術探訪を試みて酷評されたが、こちらはヨーロッパ、アメリカ、世界中のプライベート・コレクションから400点もの絵画、彫刻作品が集められ、本格的に20世紀美術の歴史を旅しようとする一大プロジェクト。古典的なモダニズムと現代アートのリレーションシップを四つの方向でわかりやすく見せる。
展示はまず「リアリティーとディストーション」から始まる。20年代の古典的アヴァンガルドのピカソの美術傾向から戦後のジャコメッティ、バゼリッツら、タイトル通りディストーションした現代作品まで。2番目は「言語と素材」。最も革命的だったデュシャンのレディーメイド作品からダダイズム、そして現代社会を直接的に反映するジェニー・ホルツァーやゲーリー・ヒル、ジェフ・クーンズらと比較。
次に「抽象性と精神性」。ここでは抽象を違った観点で捉えて展示。オブジェクトを排除したモンドリアン、ブランクーシ、カンディンスキーからポロック、デ・クーニング時代、徹底的なバーネット・ニューマン。それにマーク・ロスコの神秘的なカラー・フィールド。そしてミニマル・アートの登場が抽象主義全体の対象となる。
最後に「夢と神話」。キリコに見る非現実的なメランコリックなヴィジョンをはじめ、記憶と想像を描いたシャガール、ミロ、ダリ、マグリット。神話的というカテゴリーにサイ・トゥオンブリ、ボルタンスキーを。そして現代の神話をつくるシンディ・シャーマン、ジェフ・ウォール、カタリーナ・フリッチェ、ロバート・ゴーバーらを配置。ユニークな比較である。どの国際展にもかつてない充実したサーヴェイだ。 |
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