reviews & critiques ||| レヴュー&批評 |
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1990年代の建築家−3 | |||
レヴュー/写真 /図面 | |||
塚本由晴+貝島桃代『アニ・ハウス』 「関係」を浮上させる建築 |
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夕方の『アニ・ハウス』立面 撮影:塚本由晴 |
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今井公太郎 | |||
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建物の建ち方という問題
楽しいネーミングの「アニ・ハウス」は、設計者の「兄の家」を意味しており、茅ヶ崎の住宅地に建つ。この住宅が建つ敷地は、公園や森のような景勝地に面するわけではなく、斜面に建つわけでもない。かといって、周辺街区も都市的な高密度感を放つような場所ではなく、特徴がない。はじめて訪れる人にとっては、どこかで見たようなアノニマスであいまいな「日本の住宅地」である。設計者は、ごく平凡な敷地に建つ住宅をどう作品化すればよいのかを問われることとなる。真っ先に思いつくのは、建築のフォルムや平面形式といった内向的に閉じることができる、つまり自律性の保てる計画水準において、一貫した秩序を与えて作品に仕立てていく方法であろう。しかし、設計者はこれとは反対のまったく新しい試みを行った。それは敷地というもっとも他に依存・関係する計画水準を最優先化し、建物の建ち方自体を問題化することである。そして、都市・街区計画によって小割にされてしまった地面を即物的に捉え直して、敷地境界線とは別の分節線を模索する、自由で挑戦的な立場をとることである。インターフェースという概念を使うならば、地面と建物のインターフェースはその都度、明確に設定されるべきであるということをこの建物は提案している。 |
建物外観 |
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単純な操作
建物はキューブとこれに附属する角柱の2つのマスで構成される。キューブは平面的に敷地の中央に設置され、角柱は敷地の一辺を塞ぎかつキューブに接する様に配置される。キューブは丁度1層目が半地下になるように、敷地に対して立体的に半層ずらされる。たったこれだけの操作が、人間と地面との豊かで立体的な関係を生成している。 |
階段 |
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居間入口と階段 |
居間 |
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状況の建築
意識的に単純な操作は、操作されるもの自体よりもむしろそれが関わる文脈を照明する効果がある。かつて60年代の美術において「もの派」が、ものの操作によってそれが形作る状況を作品化したように、単純な操作にはもの自体よりも、関係を浮かび上がらせる力がある。そういう意味では、単純化された操作を施され、わかりやすいキューブという修辞にまとめられたアニ・ハウスは極めて他律的な存在であり、平凡な日本の住宅地という閉塞的状況を、少なくとも敷地周辺において、別の状況へシフトしている。「プラン・平面図」と呼ばれる、ほとんど教義化してしまった計画水準を積極的に排除することが、敷地というターゲットに集中することで可能となっている。これは端的には、これまで部屋の境界として必要であった建具が便所や倉庫以外には、玄関の扉1枚だけとなっていることにも関係するが、とても現代的な内部空間(内部の状況)への感性の表われであると思われる。このように外部と内部の状況は、基本的には設計者が他人を信用し、コミュニケーションを積極的にとろうとする構えに立たねば、想定し得ない状況である。アニ・ハウスは、未来の住宅像を模索していく者にとっては、ひとつの事件であって、日本のコンパクトな敷地に住宅を建てる建て方のプロトタイプになるだろう。 |
寝室 2階勉強室 屋内撮影:平賀茂 |
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review feature interview photo gallery art scene 97-98 |