reviews & critiques ||| レヴュー&批評 |
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1990年代の建築家−1 | |||
平面のない家 西沢大良『立川のハウス』 | |||
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塚本由晴 | |||
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住宅の「間取り」と「平面」
住宅の使われ方を2次元的に図案化したものを「間取り」というが、大学の建築学科や、建築家は「間取り」という言葉の代わりに「平面」という言葉を使う。平面が間取りよりも専門的に響くのは、そこに「機能」や「動線」という抽象概念が取り出されているからである。「間取り」と「平面」の違いは、言葉がしゃべれるだけの人と、それを書くことも出来る人の差ぐらいに大きい。この「平面」は、物理的な空間である建築を機能や動線という抽象概念を通して操作する自由とともに、計画学的な意味の体系の中でしか設計できないという束縛も我々に与えている。しかしここで紹介する西沢大良の『立川のハウス』は、平面計画というよりは、ヴォリュームの外形、規模、自動車駐車場の位置の決定を含めた配置計画をメインに、断面および詳細の計画によって定義されたと読むことが可能だ。 |
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配置計画によって住宅を定義する
東側をけやき林、南側を戸建て住宅、北西を変形した四つ角に隣接する敷地に対し、道路側のカーブをなぞり、隣家から引きをとるように中央がくぼめられた薄いヴォリュームが置かれている。道路に沿って湾曲する壁は、趣味のオーディオのための十分な距離をとることに貢献し、庭側中央のくぼみは2階の空間を子供と両親の領域に分節する。このヴォリュームを、車がぎりぎり通れるトンネル(天井高1900)が貫き、1階の空間をオーディオスペースとLDKに分節している。このトンネルは、外からみれば車や人が庭側へ抜けるためのものとして容易に理解されるものであるが、住宅の内部では床が盛り上がったような見慣れないものになっており、2階に最も近くなるという形態的な特徴によって、階段の設置位置を決定させている。ここまでで住宅内部の骨格はほぼ決定されている。つまり一般的には平面計画の水準で決定される住宅の内部が、ヴォリュームの配置という水準で遠隔操作されるように決定されているのである。
図面 ○ |
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計画水準の階層性
住宅の外部空間を扱う配置計画と、内部空間を扱う平面計画は、いわゆる階層化した関係を形成しがちだが、この住宅では配置と平面の相関を理解することによって、配置の操作によって平面に直接手を下すことなく住宅内部の骨格が決められている。また敷地の条件と住宅内部の条件がせめぎ合う水準としての配置計画における操作は、周辺環境や敷地の性格を住宅の内部空間の性格に転嫁させることになる。庭にはみ出た斜材の処理は、斜材による力学的な焦点を室内から排除し、トンネルや敷地境界に沿う曲面壁などの配置計画で決定された形態的特徴を、開放的な内部空間に純粋に浮かび上がらせる。 |
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住宅を物的に定義する
この住宅は、ヴォリュームの外形、トンネル、斜材、階段といった、限られた物的要素の相関をコントロールすることによって全体が定義されるよう意図されているが、これらの「相関を計画すること」が明確に方法化されるならば、「間取り」と「平面」の間にあるのと同じぐらいの断絶を「平面計画」との間にもたらすことができるかもしれない。この相関をコントロールしようとすることは、計画可能な要素の再定義を通して、自分でも制御の及ばない所で、既成の建築的な価値によりかかって作品が成立してしまうことへの批評となっている。それは建築を作ることを通して、建築を成立させている価値を問うていく、非常に複雑な立場といえるが、私にはこの複雑さを受け止めることだけが建築のエシックを語る可能性を開くように今は思える。 |
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