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家に帰ろう
――コンテナシップに乗って
野々村文宏

container-shipコンテナのなかには図式が詰まっている。そもそもコンテナじたいが、内容と形式の問題を分離しているほど、図式的であるにもかかわらず。 私は、時間や空間、残与としての身体に興味がある。建築的な話題に興味があるレヴュワーだ。

そんな私だから、いちばん気に入ったのは、デイヴィッド・リリーのトゥーム(大書物)だ。しかしながら、この作品は非常におもしろいモデルを提示しつつも、本当に惜しいところで核心を回避している。彼の表わしている図式こそ、実は近代建築と近代家政学が結びついたアパートメントの概念にほかならない、という、いわば自明の核心を。ここで、もし、リリーがアメリカ人で、公共空間とグラフィティ・アートに興味があったならば、ちょっと違った仕掛けをプログラマーに提案したかもしれない。または、レイチェル・ホワイトリードが呼び出そうとしている幽霊について思い起こしてもらいたい。空間についての強迫観念だ。もちろん、四作品のなかで、私はリリーの作品を第一に推す。
ブリジッド・ロウの作品は、イギリス人らしいヒューモアを感じさせるが、同じイギリス人でも、現在のコンピューターの起源にあたる論理マシンを作ったテューリングだったら、もっと違ったテストを用意したかもしれない、また、フランス人のミシェル・フーコーであれば、所記と能記を区別せよ、と指導したかもしれない。いずれにせよ、我々がインターネットの上でバスに乗り遅れている、という指摘は、端的で、かつ、詩的である。
ゲラント・エヴァンスは、イラストレーションの決まり文句を表現の武器にするアーティストである。彼の絵は図式的であり、現代の住宅も、そこに住まう家族構成もまた図式的である。このようなシェマティックな関係性への疑念を描く画家として、私はアメリカ西海岸ならエリック・フィッシェルを、またイギリスならばルシアン・フロイトを思い浮かべる。しかしながら、ゲラント・エヴァンスのアプローチ=筆致はそのどちらにも属さない。そもそも、エヴァンスの絵が、商業的に、あるいは社会的に流用されたインタラクション・シートに描かれた絵のサルヴェージなのだ。このような流用は、もともと美術業界においては、ポップが、あるいはシミュレーショニズムが得意とした手法である。しかしゲラントの場合、参照のための定規は、英語圏におけるポピュラー・ミュージックまたはロック・ミュージックの、ソニック・ユース以降、あるいはポスト・ロラパルーザの世代においたほうがよいのかもしれない。いずれにせよ、私はこれをコンピューター・ゲームのフィールドに置き換えると、あの懐かしいApple IIの輝かしき時代に登場したアドヴェンチャー・ゲームを思い出さずにいられないわけである。王女様を狙う蛇! ゲラントの文脈と、コンピューター・ゲームの文脈のあいだには、おそらくその二つがけっして交わらないだけの距離と角度がある。それは不幸なことなのだろうか? それとも幸福なことなのだろうか? さて、1961年に生まれた私は、1968年生まれのエヴァンスに、ロキシー・ミュージック〜最初の2枚のアルバムがすばらしく良かった〜から、" In Every Dream Home a Heartache "をもう一度リプレイしてもらい、家族のスキーマにもとづくお説教をしてあげよう。
ジル・オードの作品は、科学的と言うよりは、政治的である。政治的主題を扱っている。あるいは科学−政治的と言うべきだろうか? しかしながら、もしもすべての画素がコード化、デジタル化のもとに一元管理されるとするならば、その絵は、ラウシェンバーグのシルクスクリーンのように、画布を超えて違う平面を呼び出すことができるはずだ。そしてWWWとは、それを呼び出すことができるメディアなのだ。あるいは、インターナショナル・クライン・ブルーのコードの決定に悩むイヴ・クラインの姿を、我々は絵の外側に想像することができる。

さて、帰る時間だ。家に帰ろう。家に帰って、本を開き、建築的問題のパズルをもう一度、解こう。そうだな…、ジークフリート・ギーディオンの「空間・時間・建築」なんかいいな……。でも、僕はどこにいるのだろう? だって、この原稿を書いているときだって、自分の家の机の前に座っているのだから。

コンテナシップ4作品

デイヴィッド
デイヴィッド・リリー





ブリジッド
ブリジッド・ロウ





ゲラント
ゲラント・エヴァンス





ジル
ジル・オード



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