2022年07月01日号
次回7月15日更新予定

キュレーターズノート

アートで四国をつなぐとは? 「芸術の四国遍路展」

橘美貴(高松市美術館)

2022年06月01日号

アーティストのパルコキノシタが主導する「芸術の四国遍路展」が2022年の1月から四国4県を巡回している。本展はサブタイトルに「現代アートで四国をひとつに!」と掲げるように、四国という地域にフォーカスした展覧会だ。参加した14名の現代アーティストは、ほとんどが四国出身や在住者で、半数近い作家が四国の伝承や環境を取り入れた作品を展示している。また、パルコや富松篤、柳本悠花など東日本大震災の影響を映し出した作品が並んでいるのは特徴として挙げられるだろう。
しかし、会場に展示されている作品のなかに、例えば「四国とはなんぞや」というような話はほとんど出てこない。本展は、四国について訴えかける作品の展示ではなく、巡回を通して四国で制作する作家の存在やその創作を見せること、また四国のアートシーンを取り巻くさまざまな立場の人々がつながりうる場を興すことが重要だったように思う。本稿では、四つの会場と参加した14名の作家を紹介しながら、本展を振り返る。

人と人がつながる力 展覧会「芸術ハカセは見た!」

パルコは2020年と2021年に地元・徳島で展覧会「芸術ハカセは見た!」を開催し、それらと2021年に行なった四国遍路の経験を経て、四国4県を巡回する展覧会を着想するに至ったという。

2020年の展示は、金藤みなみ、堺友里、パルコの3名の作家がグループ「無知夢中」として開いたもので、パルコが、現代アートに触れる機会が多くない徳島で現代アートの展示を行ないたいと声をかけて実現したという。また、時代とともに失われていく徳島の文化や伝承を作品化して守り伝えるという思いもあった。

翌年の展示では、富松篤、ミシオ、パルコの3名と、シークレットゲストの早渕太亮が参加した。富松とミシオはパルコと同様、東日本大震災の後に宮城県へ移住した作家である。この展覧会では、災害などの非常時に重要となるのは人と人とのつながりであり、そのなかでアートが生まれるという考えが示されていた。

この2回の展覧会でパルコが訴えたのは、人のつながりの重要性である。文化や伝承、災害の記憶を後世に伝えるのは時代をも越えた人と人とのつながりであり、また危機的状況が起きた際には、同じ時を生きる者のつながりが大きな力となる。

2021年の展示の際にパルコは、それまでは徳島に焦点を当てていた視野を四国全体に広げ、アーティスト間の交流や、四国のアートシーンをさらに盛り上げるような活動をしたいと語っていた。それから1年も経ずに実現させてしまったことには驚いたが、パルコは4県のアート事情をリサーチして巡回展を開いたのである。


四つの会場を巡って

各県での展示は会場となった施設の性質や展示の趣が異なるので、ここで紹介しておきたい。

まず、巡回のスタート地点の徳島会場(2022年1月25日~2月2日)となったのは、2回の「芸術ハカセは見た!」展を開いた徳島城博物館の和室である。富松の流木を使った立体作品の隣の空間に、ミヤタケイコのビビットカラーの大きなぬいぐるみが吊り下げられ、モニターからは天歌布武信長の映像(彼を取材した地元メディアによるドキュメント映像)が流れる……。静かな和室の中で、作品それぞれが力いっぱい叫んでいるようで、賑やかな祭の会場のようでもあった。


徳島会場 展示風景(手前:神山恭昭の作品/奥:ミヤタケイコらの作品)


次の高知会場(2月5日~2月22日)となった藁工ミュージアムは、福祉とアート、地域とアートのつながりを中心に創造的な場を目指し活動している施設で、今回の巡回会場のなかでは床面積がもっとも広く、多種多様な彼らの作品もすっきり展示されていた。入ってすぐのスペースにはミズカやパルコの平面作品が展示され、奥のスペースには石井葉子や富松の作品が区切られながら展開していった。


高知会場 展示風景(壁面:金藤みなみの作品/床右:早渕太亮の作品/床左:柳本悠花の作品/天井:ミヤタケイコの作品)


続く愛媛会場(2月24日~3月8日)はギャラリー リブ・アートである。大小二つの部屋を持つこのギャラリーでは、作家も2部屋に分かれて展示されていた。松山市駅から徒歩数分のビルにあり、平日も多くの来場者が、在廊していた神山恭昭や富松、パルコらに出迎えられ、アットホームな雰囲気の会場になっていた。


愛媛会場 展示風景(壁面:パルコキノシタの作品/手前:富松篤、ミヤタケイコの作品)


最後の香川会場(5月21日~6月26日)である高松市塩江美術館は美しい自然に囲まれ、室内に陽の光が降り注ぐ。香川では出品点数を少なくしたというが、それはあまり感じられず、ミヤタなどは天井の高さを活かした動きのある展示をしており、大きな作品が際立った展示になっていた。また、香川では塩江で開催中の「かがわ・山なみ芸術祭2022」の関連事業となり、一部の作家はこの芸術祭の別会場にも参加している。


香川会場 展示風景(手前左:富松篤の作品/手前右:石井葉子の作品/奥:柳本悠花、あんどさきこ、天歌布武信長の作品)



四国ゆかりの作家たち

出品作家は各県にゆかりのある作家から基本的に3名ずつが選ばれた。徳島ゆかりの作家としては「芸術ハカセは見た!」展にも出品した金藤みなみ、富松篤、早渕太亮が選出され、高知ゆかりの作家としては「妖怪イヌジマ」プロジェクトを展開する石井葉子、子供の頃からの震災への漠然とした不安と震災後のあり方を作品化した柳本悠花、造形作家・ぬいぐるみ作家として知られるミヤタケイコが参加している。愛媛ゆかりの作家では、陶芸家・音楽家の顔を持つ工藤冬里が地元砥部の磁土や香川の土を使った作品を展示し、神山恭昭は《地上式地下室》などを展示、画家の海野貴彦は徳島・高知・愛媛会場での参加となった。香川ゆかりの作家は、土や植物などを素材にして捧げもののような作品を生み出すあんどさきこ、GPSの履歴で地図上に織田信長の顔を描き出す天歌布武信長、「紙漉きシリーズ」を展示したミズカ、香川会場のみの参加となった山中カメラが出品した。彼らに加え、パルコが「遍路小坊主」として出品しており、ここではこのうち6名の作品を紹介したい。


石井葉子《妖怪イヌジマと桜》(2022/徳島会場の展示風景)


石井葉子《妖怪イヌジマと桜》(2022/香川会場の展示風景)


石井は瀬戸内海の犬島を基点にした「妖怪イヌジマ」をつくりプロジェクト化している作家である。黒やグレーの毛むくじゃらの体に白い面のような顔と二本足を持つ妖怪イヌジマは、かわいらしさと不気味さを併せ持つ。石井は作品の購入者を彼らの「里親」と位置づけ、イヌジマが生活に寄り添うことで人に与える影響までを含んだプロジェクトとして展開する。本展では《妖怪イヌジマと桜》(2022)を発表。本作で88匹のイヌジマは土佐和紙の舟で妖怪イヌジマの邦から始まる旅に出港した。会場ごとに、前会場の桜を使った桜染の切り紙を増やしていき、蓄積する時間を取り入れながら作品を拡張させている。


金藤みなみ《塹壕兵》(2019)


金藤は特に高知会場で、2021年にも出品した《金藤みなみの鉢かづき姫》(2020)にパフォーマンス時の写真を加え、さらに《泣女》(2018)、《塹壕兵》(2019)、《桃太郎の母》(2022)を展示し、大きな存在感を示した。

《塹壕兵》は、レマルクの著作『西部戦線異状なし』を参照しながら制作された作品で、第一次世界大戦において化学兵器が使われる一方で、手で塹壕を掘る兵士たちがいたギャップをテーマにしたという。布にプリントされた兵士の顔写真は割れて剥落し、顔やヘルメットがぼんやりと認識できる程度で、その上に糸や羽がつけられ、長い腕がだらりと垂れ下がる。よく見ると指先からは血のような赤い糸が垂れている。布や糸の柔らかな肌触りや剥落した表面のぽろぽろとした手触り、さらに兵士の指先の痛みなど、見る者の触覚を刺激する作品である。


右:神山恭昭《地上式地下室》(2020)


神山は絵日記作家として活躍するほか、彫刻や絵画などさまざまな領域での創作活動を行なっている。《地上式地下室》(2020)では段ボール製の箱を覗くと、神山の代わりである人形がちゃぶ台の前に座って著書『わしの研究』を眺めているのが見える。神山は30代後半で創作を始め、60代で芸術大学の通信に入学するまでは専門的に美術を学んだことはなかったという。パルコは四国をリサーチするなかで、自由なスタイルで創作を行なう作家に出会い、そこに四国のアートシーンの可能性やおもしろさを感じたと話すが、神山もパルコにそう思わせたひとりだろう。彼の作品には物をつくる楽しさや喜びが溢れている。


早渕太亮《時間の標本》(2022/徳島会場の展示風景)


早渕は徳島県立近代美術館が開催する「challengeとくしま芸術祭」で3年連続グランプリを受賞するなど、地元での活躍が注目される作家であり、今回は徳島・高知・愛媛会場で《時間の標本》(2022)を展示した。農家に生まれ、幼いころから親しみがあったという土のひび割れの型を取り、そこに徳島で生産が盛んな藍を差した作品だ。徳島会場では水田をイメージし、作品は鏡の上に置かれていた。鏡には窓の向こうの庭園や空が映り込み、その上に土のひび割れが浮かび上がる様子はまさに田園風景を思わせた。

また、塩江美術館では大きな窓を背景に《Life time》(2022)が展示され、ここでも鏡が使われている。


パルコキノシタ《スウィート・ヒアアフター》(2015)


パルコは2点の《四国》(2021/2022)と《幽霊でもいいから》(2012)や《スウィート・ヒアアフター》(2015)などを展示した。

《四国》(2021)は海に浮かぶ四国の姿に「四国」と書かれた作品だ。一方の《四国》(2022)は荒い波と燃え立つ炎を背景に、三鈷杵とそれをつかむ手が描かれた作品で、四国で馴染み深い弘法大師・空海をモチーフに制作し、今回の巡回中に完成させたものである。


パルコキノシタ《幽霊でもいいから》(2012)


また、震災を受けて描かれた《幽霊でもいいから》は幽霊でもいいから会いたい人がいるという思いを描いた作品で、《スウィート・ヒアアフター》は震災の記憶との向き合い方を考えるなかで生まれた作品である。東日本大震災は遠い土地で暮らす人々にも大きな衝撃を与えたが、同様のことが自分のいる場所でも起こりうること、さらにその後には被害と向き合い続けなければならない長い時間が訪れることを、現実的に考えられる人はどれくらいいるだろうか。これらの作品は過去の震災を基にしているが、四国に住む人々にとっては未来の様子でもありうるのだ。


ミズカ《楮・紫陽花の花・水彩色鉛筆・水彩絵の具(制作:いの町)》(2021)


ミズカ《パルプ・水彩色鉛筆・水彩絵の具(制作:京都)》(2013)


イラストレーターとしても活動するミズカは、草木染めをした素材を使って漉いた紙で動物の姿を表わす「紙漉きシリーズ」を出品した。本シリーズは大学の授業で初めて紙を漉いた際、不格好な形に出来上がったものの、その形が象の鼻に見えて着色をしたことから始まったという。季節の植物を用いてさまざまな素材を染めてから漉く作業は、予想がつかない結果を生み出すため、自然と向き合いながらの制作となる。ミズカはできた紙をさらに見つめて動物の姿を探り出し、水彩絵の具や色鉛筆で目などを描き足す。そのような過程を経て現われた動物たちの姿は愛らしく、ぬくもりを感じさせる。


芸術の四国遍路展

このように、本展のキーワードは四国だが、四国をテーマにした作品ばかりを展示しているわけではない。では、本展でパルコが目標としていたアートで四国をつなぐとはどういうことなのだろうか。今一度、彼が展覧会に寄せたメッセージとともに考える。

パルコはあいさつ文において、東日本大震災後に移住した石巻での活動を通して、国や行政からの物質的な支援のほか、地域の人的ネットワークが復興において重要であると実感したことを振り返っている。一方で、ましてや本州と陸続きではない四国がいざというとき(今後の発生が予想されている南海トラフ大震災を例にあげて)、四国のなかで結束する必要があるのではないかと訴える。また少子高齢化や都市部との格差など、四国全体が抱える諸問題をまちづくりに直結する問題だと考え、作家が繰り返し交流を行なうことでつながりを太くし、四国全体でアートを活発にして、いざというとき助け合える社会をつくるというビジョンを示している。

パルコが訴えかける内容は一貫して「人と人とのつながりの重要性」であり、「芸術ハカセは見た!」展のときから大きく変わっていない。本展の開催においては、四国のアートを取り巻く人々がつながるかもしれない場を興すことが大切だったのではないかと感じる。そこには被災後の町で人々の姿を見つめ、アートを中心とした活動を続けているパルコの思いが詰まっていた。




芸術の四国遍路展

会期・会場:2022年1~6月にかけて四国4県各会場に巡回
公式サイト:https://art-henro.site/

香川所縁作家: あんどさきこ/天下布武信長/ミズカ
徳島所縁作家:金藤みなみ/富松篤/早渕太亮
高知所縁作家:石井葉子/ミヤタケイコ/柳本悠花
愛媛所縁作家:海野貴彦/山中カメラ/神山恭昭/工藤冬里 
遍路小坊主:パルコキノシタ

徳島「第三回芸術ハカセは見た! 〜芸術の四国遍路展 徳島編」

会期:2022年1月25日〜2月2日
会場:徳島城博物館(徳島県徳島市徳島町城内1-8)

高知「芸術の四国遍路展 高知編」

会期:2022年2月5日(土)〜2月22日(火)
会場:藁工ミュージアム(高知県高知市南金田28 藁工倉庫)、チェルベロコーヒー店内(高知県高知市北本町3-11-35)

愛媛「芸術の四国遍路展 愛媛編」

会期:2022年2月24日(木)〜3月8日(火)
会場:ギャラリー リブ・アート(愛媛県松山市湊町4-12-9 メゾンM2ビル3F)

香川「かがわ・山なみ芸術祭関連事業 芸術の四国遍路展 香川編」

会期:2022年5月21日(土)〜6月26日(日)
会場:塩江美術館(香川県高松市塩江町安原上602)、モモの広場責任者の大西さんのお店(さらに周辺市街地)



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