2022年12月01日号
次回12月15日更新予定

キュレーターズノート

鳥取県立美術館、2025年開館のカウントダウン始まる!

赤井あずみ(鳥取県立博物館)

2022年06月15日号

2025年春の開館を予定する鳥取県立美術館は、去る2月11日には起工式が執り行なわれ、オープンまでいよいよ3年をきった。3月27日にはカウントダウンイベントとして、「鳥取県立美術館がめざす、コレクション・ラーニング・地域連携のこれから」と題した記念フォーラムが開催され、ゲストには蔵屋美香横浜美術館館長、保坂健二朗滋賀県立美術館ディレクターを迎え、鳥取県立美術館パートナーズ株式会社(特別目的会社:SPC)のアドバイザーを務める鈴木潤子氏、県教育委員で鳥の劇場芸術監督の中島諒人氏、尾崎信一郎鳥取県立博物館館長(当時。現在は鳥取県教育委員会事務局 美術館整備局 美術振興監)の計5名が登壇した。タイトルに掲げた3つのテーマは、そのまま2022年現在の日本の地方公立美術館が取り組むべき課題と言ってもよいだろう。フォーラムの内容についてはウェブサイトに開催報告として掲載されているが、ここではこの3つのテーマに沿って、美術館整備の現状をレポートしたい。


鳥取県立美術館の建設中の風景(2022年5月25日撮影)


新たな収集方針

まず、美術館の根幹となるコレクションについては、鳥取県立博物館の美術部門の収蔵品1万点あまりを引き継ぎ、鳥取県の文化基盤としての役割を担う一方で、地域に縛られない「国内外の優れた美術作品」を収集対象とすることが発表された。

鳥取県では1993年に美術品取得基金制度が設けられ、年度ごとに操り戻しを行ないながら、継続した収集活動を行なってきた実績がある。この制度を引き続き活用しながら、より幅広いジャンルの作品を収集することで、研究や展示の充実を図ることが可能となる。さらに「同時代の美術の動向を示す作品」というもう一つの方針が設けられた。これは新たにできる美術館の態度表明として重要である。日本の美術館に対する批判のひとつに、開館時には多くの収集予算がつけられるが、開館後にそれが大幅に縮減されるという状況がある。当県の場合、美術館オープンの時点までの特別予算をつけるのではなく、時代と並走しながら継続した収集を主眼に置いて活動していくことを選択した。当たり前とも言えるが先行する美術館たちがなかなか達成しえなかったことにチャレンジしていくという考え方が、ここに反映されているとも言えるだろう。なかでも中堅・若手の作品を収集していくことは、現代美術館を名乗らない館としては極めて珍しい方針であり、新しい価値の創造と作家支援というミッションが美術館に加わったことを意味している。

2000年以降芸術祭やアートプロジェクトの振興により、現代美術に脚光があたり、若い世代を中心に「アート」が普及してきているという状況を背景に、現代アートに親しみのある来場者のニーズに応えることも示されていると言えるのではないだろうか。



フォーラム「鳥取県立美術館がめざす、コレクション・ラーニング・地域連携のこれから」会場風景


ラーニング・プログラムの新たな取り組み──アート・ラーニング・ラボ

ラーニングについては、2017年の美術館基本構想策定段階から重要視されてきた項目である。2021年に開館した八戸市美術館が「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトとして、ラーニングを中心に据えた活動方針が注目を集めているように、現在、美術館における教育普及事業は、最重要の取り組み課題といっても過言ではない。

県立博物館の教育普及事業は、3名の担当者が中学校の美術科教員出身者ということもあり、美術教育研究会への参画や授業相談、学校へのアウトリーチ事業など、学校現場との比較的スムーズな連携体制が確立されている。また、ここ10年にわたり「毎週土曜はアートの日」として、年間を通じてワークショップやギャラリートーク、映画上映会といった普及事業にも取り組み、一定の手応えを感じている。こうした実績を踏まえた上で、さらに別の次元の「学び」──「アートを通じた学び」の実践が求められている。

美術教育を専門とはしていない筆者ではあるが、これまで参加型アートや地域でのアートプロジェクトに携わってきた経験から、この「学び」の効能についての実感がある。例えば中ハシ克シゲのゼロ・プロジェクトでのボランティアとの共同制作のプロセスにおける地元に暮らす戦争体験者へのインタビューを含めた膨大なリサーチや、作業のために集まった多様な人々との交流。あるいはアーティストの滞在制作に付き添うなかで出会った学者や市井の人々の記憶や知恵。作品についての知識や情報、技術を身につけ、理解を深めて「アートを学ぶ」というこれまでの教育普及活動に加えて、アートをツールとして視野を広げ、世界を知ることの試みの場となることが、美術館に期待されている。

鳥取県立美術館で構想中の「アート・ラーニング・ラボ(Art Learning Lab.通称A.L.L.)」は、こうした「学び」についてのシンクタンクであり、美術館や学校教育での実践現場とプログラムの検証を含めた研究開発を繋げる一体的な活動体である。美術館職員や美術科教員だけではなく、研究者やアーティスト、さまざまなジャンルの専門家、ボランティアスタッフらがそれぞれの技能や課題を持ち寄り、立ち上げたプロジェクトに協働して取り組み、活動していく場をイメージしている。


アート・ラーニング・ラボ(Art Learning Lab)概念図


すでに走り始めているプロジェクトに、小学生の招待事業と対話型鑑賞のファリシテーター育成プログラムがある。前者は、全県下の小学生(主に4年生)を美術館に招待するためのバスツアー事業で、すべての児童生徒に美術館体験を提供することで、次世代の文化の担い手を育成する試みである。これは、金沢21世紀美術館の取り組みを参考に計画しているが、県単位で行なう場合はより広域にわたらざるを得ない。遠方からの来館には困難が多く、未だ認知が進まない実情がある。それでもこれまでの5年間で延べ38校2,240名の小学生の来館を試行的に実現し、今年度は9校の参加を予定している。



バス招待事業による小学生との対話型鑑賞プログラム実施風景 [写真提供:鳥取県立博物館]


これと並行して進めているファシリテーターの養成プログラムでは、希望者に対する事前研修を行ない、美術館のオープンと同時に小学生に対する対話型鑑賞のファシリテートを担当することを目指している。現時点での登録者は20余名、大学教諭から美術大学の出身者、美術館建設地のお膝元の住民たちに加え、近県からの申し込みもある。学芸員の作品解説が知識の伝達に終始する一方、対話型鑑賞は、鑑賞者どうしのコミュニケーションにより作品鑑賞を深めると同時に、多様な見方や考え方を経験する場として近年美術館で取り入れられているメソッドである。実際筆者が立ち会った現場でも、参加者の発見から意外な解釈へと発展することがままあり、純粋に楽しみながら作品を共有する充実した時間を経験した。



対話型鑑賞ファシリテーター養成講座での様子



3月26日には三ツ木紀英氏(NPO法人芸術資源開発機構代表理事、アートエデュケーター、アートプランナー)を講師に養成講座を開催した。


掲載した概念図を見てもらうとわかるように、学校だけではなくさまざまな施設や機関、団体との連携が想定されているが、これを実現するためには相応の人的リソースが必要となることは明らかである。今後いかにこの担い手を確保し、連携制度を含めてオーガナイズしていくかが鍵となってくる。

地域連携の新たなかたちを模索する

さて、フォーラムのもう一つのトピック、「地域連携」についても、近年の美術館の課題のひとつとして挙げられることの多い事柄である。アート・ファンだけではなく、美術館に来たことがない人、興味があまりない(なかった)人に対してアプローチし、まちづくりや地域振興の拠点としての機能をもつことが期待されている実情は、先のフォーラムで蔵屋氏も指摘されていた。

既にある取り組みとしては、鳥取県内の美術館・博物館施設の連携組織「鳥取県ミュージアム・ネットワーク」の活動がある。52団体が参加するこの活動は、チケット割引制度による利用の活性化や、Facebookページでの共同広報に加え、補助金制度を用いた館蔵品の相互貸借による共同企画展の開催を行なっている。今年度は北栄みらい伝承館、倉吉博物館、鳥取県立博物館の3館のコレクションによる「生誕100年 吉田たすく展」を秋に開催する予定である。

美術館の開館へ向けた活動としては、今年度よりいくつかのプログラムを開始する予定だ。ひとつには開館までの期間、県立美術館ができる倉吉市内にサテライト・スタジオを開設し、ワークショップ、作品展示、トークイベントなどを展開する拠点をつくる事業で、今年の夏頃からの運営を念頭に、準備を進めている最中である。この拠点では、アーティストによる地域のリサーチやそれに基づく作品制作を含めたプロジェクトの実施も計画しており、前述したA.L.L.の活動も含め、参加と共有をコンセプトとして活動していきたいと考えている。

美術館とは少し離れるが、もうひとつ関連した話題として、筆者が関わるホスピテイル ・プロジェクトが加盟する「鳥取藝住実行委員会」の鳥取クリエイティブプラットフォーム構築事業がある。これは、県立美術館の整備を契機とした地域の内発的創造活動活性化のための体制づくりを目的に、今年度から3年間かけてアーティスト・イン・レジデンス活動のほか、文化的創造的な活動を行なう団体の中間支援組織の立ち上げを図るものである。昨年いくつかの団体についてartscapeの記事にて紹介したが、それぞれの団体は小さいながらも何らかの拠点を持ち、自主的なアートにまつわる活動の実績とそれに伴って培われてきたコミュニティやネットワークが既にある。また、この実行委員会が運営する市民ライターによるウェブマガジン「totto」は、「tottoの美術館プロジェクト」と称した県立美術館にまつわる情報発信を独自に行なってきている。こうした住民主体の文化的基盤と美術館がいかに繋がり、ともに豊かな土壌を耕していけるのか。理想の未来を描きつつ、楽しみながらこれらの課題に向き合っていきたいと思う。


★──2022年11月3日(木・祝)〜12月4日(日)まで、北栄みらい伝承館で「生誕100年 吉田たすく展」と「吉田たすくとゆかりの北栄町の作家たち」を同時開催する予定。https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1275924.htm


関連記事

鳥取のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムについて|赤井あずみ:キュレーターズノート(2021年10月01日号)
マイクロなアート活動とゆるやかなネットワーク、そして鳥取県立美術館のオープンに向けて|赤井あずみ:キュレーターズノート(2021年06月15日号)

鳥取県立美術館

住所:鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12外
URL:https://tottori-moa.jp

文字の大きさ