キュレーターズノート

松尾直樹 展「Spacing3(登場と退場)」/児玉靖枝 展「深韻」/栗田咲子 展「インストール」/ROBERT PLATT「huntorama 2」/放課後の展覧会

中井康之(国立国際美術館)

2009年06月15日号

 上述してきたような貸画廊が、次第に勢力を弱めていったのは、非営利的ないわゆるオルタナティヴ・スペースが生まれてきたことにも大きな要因があるだろう。東山の麓で数年前から活動を始めたマズ プログラム スペースもそのひとつで、この時期には、世代的には栗田と同世代の、但し京都芸大に在籍した時期で言うと少し後になる、ロバート・プラットによる「huntorama 2」が開かれていた。その造語の意味は狩猟と展示を意味しているという。ロバートの作品は比較的大きな画面の中でひとつの世界が完成するような構造を持っているので、この大きな展示空間をコントロールすることは難しいかと想像していたが、そのタイトルの意味している狩猟(hunt)というテーマでそつなくつくり上げていた。


ROBERT PLATT「huntorama 2」、会場風景

 この時期にはもう一箇所オルタナティヴ・スペース的な活動を見ることができた。それは先月、植松さんがレポートしていた元立誠小学校を舞台として開かれていた「放課後の展覧会」である。
 ところで冒頭で苦言を呈することになるが、実はこの展覧にはあまり期待をしていなかった。というのはそのタイトルにあまりにも魅力を感じられなかったからである。それほどまでに展覧会のタイトルというものが大切である、という自らを戒める機会とはなったが……。だが、その予想を裏切って、それぞれにラディカルなスタイルと見せる事への意欲を感じ取ることができた。参加作家11人すべてについて触れることはできないが、花々が一面に描かれたベニヤが無造作にちぎられて教室に投げ出されたいた碓井ゆいの《broken flower》は見る者の精神になにかを跡づけるものだった。宮永甲太郎の本を縦積みにすることによって廊下を塞いでいた作品はどこかで見た風景のようではあるが、ある詩情を漂わせていた。この展覧会の立案者でもある木内貴志の机を版木にした作品は、そのボリュームと共にある説得力を持っていた。他にも佐川好弘や花岡伸宏の立体、山口和也のドローイング、森田麻祐子のアニメーションと絵画の混交形態なども興味深い作品群であった。そして、とりわけ見る者に挑戦的であったのは木藤純子の《over the rainbow》であった。入ることができない教室と、なにもないかのような教室。そこに途切れ途切れに流れるover the rainbowのピアノ曲。見る行為の覚醒を、木藤の作品はいつもうながすのである。


碓井ゆい《broken flower》


宮永甲太郎《希望の光》


木内貴志《中学性日記(モザイク&レジェンド)》


木藤純子《over the rainbow》

 ここは、あくまでも現況を報告する場所なので、ここで最初に問題提議したような事由に対して結論めいたことを述べる必要もないのだが、美術作品の役割のひとつとして見ることの認識の変革、ということがある。それを導くためにアートワールドなる外からの働きかけなどによって、見ること自体のスタイルが生まれ変わるというフローがあるのだろう。それに対して、自律的な変革を成し遂げようとするときに、見る行為を思考することをうながすような作品の存在というものが重要になってくるのである。それは、いかなる時代であろうとも変わることのない原理とも言えるものであろう。

シリーズ80年代考 松尾直樹 展「Spacing3(登場と退場)」

会場:ギャラリー16
京都市東山区三条通白川橋西入上ル石泉院町 戸川ビル3F/Tel. 075-751-9238
会期:2009年5月5日(火)〜16日(土)

児玉靖枝 展「深韻」

会場:アートスペース虹
京都市東山区三条通神宮道東入3丁目東町247/Tel. 075-761-9238
会期:2009年5月12日(火)〜24日(日)

栗田咲子 展「インストール」

会場:ギャラリーモーング
京都市東山区三条通神宮道東入中之町207/Tel. 075-771-1213
会期:2009年5月19日(火)〜6月7日(日)

ROBERT PLATT「huntorama 2」

会場:マズ プログラム スペース
京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル1F/Tel. 075-761-0544
会期:2009年4月25日(土)〜5月31日(日)

放課後の展覧会

会場:元立誠小学校
京都市中京区蛸薬師通河原町東入備前島町310-2/Tel. 075-212-6391
会期:2009年5月23日〜31日

  • マーティン・クリード展
  • 松尾直樹 展「Spacing3(登場と退場)」/児玉靖枝 展「深韻」/栗田咲子 展「インストール」/ROBERT PLATT「huntorama 2」/放課後の展覧会