キュレーターズノート

日英キュレーター交流プログラム

坂本顕子(熊本市現代美術館)

2010年07月15日号

5月14日

 朝一番に訪問したのは、WorkPlace Gallery。いわゆる‘整えられた’ホワイト・キューブではないが、地元を中心とした若手アーティストの作品が多く展示されていた。また、作家の情報リストもかなり充実し、単なる商業ギャラリーではなく、むしろニューカッスルから発信する同世代の作家たちを応援したいという意気が感じられるスペースであった。
 続いて訪れたのは、BALTIC Centre for Contemporary Art。館内ではジェニー・ホルツァーの回顧展が行なわれ、総点数は少ないながらも、見応え充分の大規模インスタレーション。そのほか、奈良美智のドローイングを効果的に使ったワークショップ用のスタジオスペースや、展望スペース、レストラン、ショップなど非常にバランスが良いつくり。美術館名物のカモメのライブビデオなど、クオリティの高い企画展と、細やかな気配りの両立がとても居心地のいい空間を作り出していた。
 その後、ニューカッスルをエリアとする文化機関Arts Council England(North East)を訪問。ちょうど、この日は、アーツカウンシルがサポートし、地域全体でギャラリーや美術館を夜間開放するThe Night Showにあたり、その後、夜の街を歩くと、いわゆる‘学園祭’のノリで、ライブをしたり、若者たちがたむろする「居場所」がうまくつくられているように感じた。そして、最後にニューカッスルを代表する古参のオフィス、Locus+を訪れた。一目で海千山千であることがわかるディレクター、Jon Bewleyから、その歴史や活動を聞く。この日は、そのままニューカッスルに滞在。


Baltic Contemporary for Artのワークショップスペースの奈良美智

5月15〜16日

 ニューカッスルからロンドンに戻った、15日午後から16日はフリー。そのあいだに、Camden Art CentreBarbican GallerySerpentine GalleryV&Aロンドン漱石記念館などを訪問。なかでもTate Modernでの世界のオルタナティヴ・スペースが集うアートの祭典「No Soul For Sale」は、超巨大な学園祭というような熱気にあふれ、ライブなどを目当てに集う多くの若者たちの元気に圧倒される。


テート・モダンでのオルタナティヴ・アートスペースの祭典「No Soul For Sale」

5月17日

 最後の訪問地は、ノッティンガム。Nottingham Contemporaryでは、地方都市の美術館ながら(ゆえに)、グローバリズムというテーマに取り組んだ企画展を見た。このようなテーマはどうしても展示が説明的になってしまうのが難しいところだが、この分野の権威であるサスキア・サッセンをトーカーに迎えるなど、地域の大学とも連携する努力がうかがえた。
 その後、若手アーティストたちの展示とレジデンスを行なうMOOT Galleryへ。ワイルドなスペースだが、きちんとキャリアを積んだディレクターが若いアーティストたちを押し上げるかたちで運営されている様子が伝わってきた。
 この5月17日をもって、研修は終了。のべ30以上の大小さまざまな美術館、ギャラリー、文化機関を訪問し、管見ながら、イギリスの現代美術におけるひとつの視点を得ることができたこの機会にたいへん感謝し、帰途についた。

 最後にこれらのプログラムの内容は、ブリティッシュ・カウンシルのブログや、flickeryoutubeにもアップされている。どうぞご参照いただきたい。