キュレーターズノート

日英キュレーター交流プログラム

坂本顕子(熊本市現代美術館)

2010年07月15日号

学芸員レポート

 熊本市現代美術館では、「小泉八雲生誕160年記念・来日120年記念展:へるんさんの秘めごと」が開幕した。1850〜1904年の3年間、五高(現・熊本大学)に英語教師として赴任した「へるんさん」こと小泉八雲を、同時代のイギリス・アメリカ・日本の美術、そして現代の美術のなかに、その精神や興味、嗜好が息づいていることを探る内容となっている。絵金にはじまり、宮島達男、高嶺格、西尾康之、野村佐紀子らの旬な作家たちが集う。なかでも、今年4月に阿蘇にある東海大学農学部にレジデンスして、仔牛の解剖を実見し、そのスケッチを行なった松井冬子の《腑分図:仔牛》、そして、八雲がアイルランド、英国、アメリカ、日本と住処を移してきたその生き方に注目した《八雲の庭・ちにあしがつかず》、また、片目が不自由でそれをかばうように写真を撮ったという点に着目した《八雲の庭・嫌よ嫌よも好きのうち》ほか、のビデオ作品を新たに制作した鈴木淳は見逃せない。
 また、夏休み中の土日には「アートえんにち」と題し、昨春展覧会を行なった漫画家、井上雄彦のアシスタントによるワークショップ「めざせマンガ家!」、藤浩志プロデュースの「かえっこショップ」のほか、八雲展とも連動した各種ワークショップが目白押しである。
 それと同時に、7月31日からギャラリーIIIではじまる「熊本アーティスト・インデックス」の準備がいよいよ佳境だ。雨のなか、市内の高校で高校生50人を前に「ダンスで校歌を指揮」した、ダンサー/振付家の竹之下亮の《おもいリレー》、ゴミをテーマに美術館に隣接する上通商店街でパフォーマンスを行なった加藤笑平の《あなたのゴミをください》などの撮影に、いままさに取り組んでいる。表現の質としては、まだ稚拙で、粗削りである。しかし、新しい表現のかたちにチャレンジする作家がこの熊本から出てきたことは、素直に嬉しく、また、今回選ばれた作家たちが、自然発生的にクラブでプレイベントを行なうなど、美術館と街、若い世代とを結ぶアクションが生まれはじめている。地方公立美術館での小さな展覧会が、地元の若い作家たちを励まし、育て、応援する、そのプラットホームになっていく、という私たちの「夢」の一端を、どうぞこの機会にご覧いただければ幸いである。


左=鈴木淳《八雲の庭・嫌よ嫌よも好きのうち》 
右=竹之下亮《おもいリレー》、撮影風景


加藤笑平《あなたのゴミをください》、実施風景

小泉八雲生誕160年記念・来日120年記念展:へるんさんの秘めごと

会期:2010年6月26日(土)〜9月5日(日)

熊本アーティスト・インデックス

会期:2010年7月31日(土)〜9月12日(日)

ともに会場:熊本市現代美術館
熊本市上通町2番3号/Tel. 096-278-7500