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アートミュージアム・アンヌアーレ2018開催レポート
artscape編集部
2018年12月01日号
美術館に関わる人々が、立場を越えて議論し交流する場「アートミュージアム・アンヌアーレ2018」が、10月30日から11月1日の3日間、パシフィコ横浜で開催された。本展は今年から始まった新しい試み。アートをとりまく環境が大きく変化するなかで、どのような展示やディスカッションが行なわれたのか。そして、そもそもあまり聞き慣れない「アンヌアーレ」とは……? 図書館総合展と合同で開催されたアートミュージアム・アンヌアーレ2018をレポートする。
20回目の開催を迎えた図書館総合展
アートミュージアム・アンヌアーレ2018は、図書館関連で最大のトレードショー「図書館総合展」と同時に開催された。図書館総合展は、館種を超えた図書館界全体の交流・情報交換の場として開催され、今年で第20回目を迎える。昨今、図書館の社会的、経済的な役割が期待されるなかで、図書館にまつわるさまざまな取り組みや製品が一堂に会する。例えば、コンパクトに多くの本を収められる回転式の書架や、たくさんの本を運ぶときに役立つアシストウォーカー、司書向けの高性能手袋など、普段、私たちが図書館を利用するときには気付かない視点から、図書館のさまざまな側面を発見することができる。
なかには美術館や学芸員、アートファンに向けた展示もある。例えば、美術図書館連絡会(ALC)のブースでは、2018年に新しくリニューアルした「美術図書館横断検索システム」を紹介。連絡会に加盟する美術図書館の蔵書を横断検索でき、展覧会のカタログやアート関係の雑誌をすばやく見つけることができる。
「毎年」開催するアートミュージアム・アンヌアーレ
アートミュージアム・アンヌアーレは、そんな図書館総合展の一角に特設コーナーを設けて実施された。発起人の神代浩氏(東京国立近代美術館長)は、開催に際して「(ビエンナーレやトリエンナーレではなく)毎年やりたい。だから『毎年』を意味するイタリア語、『アンヌアーレ』を名称に付けました」と述べている。「アンヌアーレ」という言葉には、美術館やその環境をよくするために、立場を越えて絶えず議論や交流を重ねていきたいという想いが込められている。
会場の特設コーナーには、美術館やアートに関わる企業や団体がブースを出展。来場者にそれぞれの活動や取り組みを紹介していた。とりわけ注目されたのは、会期中に5回にわたって開催されたフォーラムだ。まちづくりやビジネスといった、近年とくに関心を集めている観点から、アートの関わりの可能性が議論された。たとえば、「アートと現代社会」というテーマが掲げられたフォーラムでは、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)の著者・山口周氏が講師として登壇。本書はビジネス書大賞2018で準大賞を受賞し、話題となった。最近では、書店の棚を見渡すと「美術史」や「アート」を冠したビジネス書も散見される。アートの入り口はビジネスマンにも広がっている。
子どもの頃、図書館の本を通じて美術に関心をもった山口氏は、あるときフランシスコ・デ・ゴヤの絵画作品を知って衝撃を受けたという。作品や作家との出会いの扉は、図書館や美術館によって開かれている。これを受けて神代氏は、ビジネス書をきっかけにアートに関心をもった人も、ぜひ気軽に美術館に足を運び、本物の作品に触れてほしいと語った。そのほかのフォーラムでは、美術作品のデジタル活用についての取り組みの紹介や、第一線で活躍する学芸員と司書によるディスカッションを通じて、ML(ミュージアム・ライブラリー)連携のあり方について意見が交わされた。
ところで、ML連携が叫ばれるようになって久しいが、近年では「太田市美術館・図書館」(群馬県)のように、小規模ながら可能性に満ちた美術館と図書館の複合施設が注目を集めている(その独自性について、アーツ前橋館長の住友文彦氏によるキュレーターズノートや、村田真氏、五十嵐太郎氏がレビューのなかで触れている)。アートミュージアム・アンヌアーレは今年始まったばかり。施設のハード面やソフト面、職種や業界の垣根を越えた議論が望まれる。美術館と図書館をとりまくよりよい関係や環境づくりを目指して、さらなる取り組みの有機的な発展を期待したい。
アートミュージアム・アンヌアーレ2018(終了しました)
会期:2018年10月30日〜11月1日
会場:パシフィコ横浜(横浜市西区みなとみらい1-1-1)